Justin Timberlakeの『Man Of The Woods』

僕にとってジャスティン・ティンバーレイクはとっても思い入れのあるアーティストです。何でかと言うと、単純に僕が初めて買った洋楽のCDが彼のファーストアルバムにして大傑作『Justified』だからです。単純ですよね。でも個人的には結構自慢できる。初めて買ったCDって生涯でひとつだし決して変わるものではない。それがたまたまジャスティンで本当に良かった。
ちなみに初めて買った邦楽CDはトライセラトプスの『A Film About The Blues』ですね。これも結構自慢モノ。


しばらく自分語りが続きます。思い出語り。
たまたまスカパーで見た"Like I Love You"がカッコ良すぎてね。当時は何も考えてなかったけどあのメロディとビートとボーカル。もう衝撃的だった。J-Popしか聴いてこなかった自分には訳分からないほどの衝動でしたね。
学生時代なんてお金がない。趣味もそれなりにあったし、お小遣いのやりくりとか相当な死活問題。でも僕は迷うことなく直行したんだよな。
地元のTSUTAYAにはCD販売もあって、割引率が驚異の10%。のちに割引チケットは廃止され、最終的には何年後かにTSUTAYA本体も潰れてマツモトキヨシになってしまいましたが。下校途中、定期券で行ける駅で降りてそのTSUTAYAに向かい、迷うことなくCDを手に取り、レジへ向かった。
いろいろ欲しい物もあっただろうに躊躇うことなく『Justified』を買った。昔の自分を褒めてやりたいね。
ほんと昔の自分サンキュー。


もうしばらく自分語りが続きます。
昔から洋楽には抵抗などなかったけど、知識などほとんどない。特に最新の洋楽とか全然知らない。
ブリトニー・スピアーズぐらいは知ってたよ。さすがにね。でも彼氏が誰とか知らない程度に無知だった。
『Justified』は最高だった。何の知識もいらない。まっさらな耳と頭で聴いて、最高に楽しかったよ。
洋楽のCDには付き物の白い小冊子の解説。確かThe NeptunesとかTimbalandがどうとか書いてあった。当時の自分としては知らんがなと。誰やねんと。ジャスティンのこと書けよと。
無知は罪。
2002年。僕はもうひとつ、幸せな出会いを果たしていた。



今回の『Man Of The Woods』は、あの時以来のJustinとNepのタッグという形になる。細かくはSnoopの"Signs"とかPharrellのソロとかあったけど、ジャスティンのアルバムで絡むのはまさに16年ぶりと。
これだけの長い年月を経て、当時ちょっと失恋をひきづっていた若き青年はその後アメリカの音楽史に名を刻むような活躍を時折見せ、当時キレキレだった天才プロデューサーチームは少し歩みをゆるめながらも進み続け再び大きな波を産み出す存在に返り咲いたりしてます。


正直言えば、僕は2nd『FutureSex/LoveSounds』があんまり好きではない。
このアルバム以降、アメリカの音楽シーンの傾向は大きく変わって、いかにこの一枚が影響力があったか。2006年以降のシーンはひたすらテクノ寄りのクラブミュージックが大半を占めるようになった。大元を辿ればこのFSLSに行き着く。
音楽のジャンルとしてはPrinceが1990年前後に披露していた内容であり、決して目新しいものではないのだが、当時は不評で不人気だったらしく、結果として後に続く者もおらず、後に続く物もなかった。
それが2006年にJustinとTimbalandが発掘し、再現しながらブラッシュアップを重ね、披露した。時代が理解を示し、むしろ欲していたぐらいの勢いで受け入れられ、のちの大きなトレンドとなった。
これが事実。これは歴史に残っている。
でも好きじゃない。なんか違った。
先行カット"SexyBack"の時点で全く響かなかったね。う〜ん、こんなもんかと。
だから僕は発売日にアルバムを買わなかった。お金もあんまりなかったし。
でもこの曲も売れたし、アルバムも各所で絶賛されて、ホンマかいなと。
流石に"My Love"はすごかった。あれには圧倒されたけど。でも心の底から望んでいた音楽ではなかったよ。


そう言えば僕の好きな曲Tyler The Creatorの"See You Again"の冒頭で20/20ビジョンって歌詞が出てきて、ああジャスティンのアレだと思いましたけど。
サード『20/20 Experience』はどうですかね。普通にティンバランド節で、そこにジャスティンのメロディが乗る面白さこそあるけど、もちろんメロディは依然素晴らしいんだけど、きらめくほどの音楽とまでは至らないっていうぐらいか。アベレージを超えるクオリティだったけど、深みはなかったか。
何の恨みもないけどティンボって信用できないというか僕はあんまり心の中で認めてませんね。こんなこと言うと怒られそうですがAaliyahのセカンド以降の諸作品とか全然好きじゃないわ。さっきWikipediaで膨大な量あるティンバランドのプロダクションディスコグラフィーを確認しましたけど、好きな曲あんまりないな。Jamie Foxxの"I Don't Need It"とかいいよね、あとベタに"Big Pimpin'"とか"Headsprung"とか。



いい加減ニューアルバムのこと書かなきゃ。
今作の構成を見ると、前半は鮮やかに攻めまくる大胆なポップスが並び、後半は穏やかでおおらかなカントリーが並ぶ。何となくMichael Jacksonの『Dangerous』を思い浮かべました。あとGeorge Michaelの『Faith』。まぁジャスティンとジョージ・マイケルはいろいろ近いところがあるのよホント。これはいつもそう。
いろいろポイントがあって要所があるんですが、全体を通して思ったことは、とにかく腑に落ちるというか、納得が行くんですね。
セカンドサードの頃にはどうしても首をひねる瞬間があった。なんか違うんじゃないかって。なんかよくわからんなぁと。
今回はめっちゃ腑に落ちまくる。
曲を聴きながら早々に心地よさを覚えていて、曲が進むにつれて「あーそうそう」っていう展開があって、嬉しくなる。これが欲しかったっていうプロダクションがきっちり構築されていて、すごく耳に身体に馴染んで行く。
これが欲しかった。こんなアルバムが欲しかったのよ。
単純に僕の好みなんだろう。ティンバランドよりもネプチューンズが好きっていう、それだけだろうな。


昨年末にN.E.R.D.のニューアルバム『No One Ever Really Dies』が出てますよね。ファレル自体は依然好調ですが、果たしてN.E.R.D.という特殊な本気仕事になった時にどうなるかっていうのは興味深くもあり、ちょっと不安なところもあった。他人をプロデュースするクリエイティビティはいいにしても、N.E.R.D.はそう単純じゃない。このバンド用のクリエイティビティはどうなのかと。
それが意外と面白かったんだよね。なんかヘンテコなんだけど、可愛らしくて、まぶしい感じ。捨て曲もまぁまぁあったけど、それ以上にかっちりハマった時のワクワク感が素晴らしくて、おいおいまだガンガン行けるやんけと感動したんよ。
今回のジャスティンの『Man Of The Woods』もその地続きにある。やっぱり面白い。普通じゃないことをやっているけど、奇を衒ってるようでメロディがやっぱりキャッチーだから本質は失われていない。ポップスターであり、ポップスと。
エグくなりそうだけど、手触りは優しい。メロディだけでなく演奏もボーカルもひとつになって、理想的なプロダクションになっている。
素晴らしいよな。


やっぱりジャスティンとファレルゆえというところか、それともジャスティンとチャドのおかげか、いや結局はファレルとチャドだからこそなのか。
答は全部。3人揃ったから、夢が現実になる。


ありがたいね。ホントありがとう。




スーパーボウルのハーフタイムショーも見ましたよ。
っていうかおめでとうイーグルス。勇敢でいい戦いでしたね。
ジャスティンってそんなに声量がないので、いささか地味だったかもしれない。パフォーマーとして同タイプのBruno Marsが近年素晴らしいショーで喝采を浴びていたのもあって、やりづらさもあったかもしれない。
まぁ問題ない。あいつも天才だし、それぞれの土俵で頂点を取ればいい。



最後にちょっと未来を考えてみます。
今作の後半に披露された音楽たちはカントリー寄りのポップスで、決して泥臭くなく爽やかに綺麗にまとめていて良かったですよね。
ルーツミュージック。ジャスティン・ティンバーレイクの故郷テネシーのメンフィスと言えば、当然Elvis PresleyとJohnny Cash。
立ち返るのはいいんだ。キャリアも長くなって、そういうモードに入るのは問題ないし、誰しもが通る道。
難しいのはこの直後で、2回目はないよ。ルーツミュージックでまた別のアルバムを出すのは微妙。僕の意見だけど、果てしなく微妙。
なぜなら、そこには新しいものがないから。
もう一度、己の位置に戻り、そこであらためて創造をできるのかどうか。
今作は素晴らしかったが、それと同時に終わりを予感させるものでもあった。
少しづつ穏やかになって行くだろう。もうかつてのように流行や空気を更新することもないかな。
別に責めているわけでもないし、嘆いてるわけでもない。
彼も一人の夫であり、一人の父親である。昔とは違う。
僕はただ、流れた時間を思って、懐かしさと切なさを覚えただけだから。
いろいろあったよなと、時を見つめて思っただけよ。
幸せになろう。