鹿島アントラーズ vs 横浜Fマリノス

1993年5月15日。28年前の今日、Jリーグは始まった。
マリノスは宿敵ヴェルディを破って輝かしく初陣を飾れば、アントラーズグランパスを圧倒してステージ優勝の第一歩を刻んでいる。
オリジナル10、そしてJ1在籍を守り抜いているオンリー2。Jリーグが始まって以降唯一、一度も切れることなく続いているカード。
まさに伝統の一戦、57試合目。


僕はアントラーズファンなので、アントラーズ目線で書いていきますけど。
激しく優勝を争ったライバルのジュビロとか、審判や協会とも戦わないといけないレッズやフロンターレとは違うんだよね。
日産時代から名門であり続けるマリノスはまっすぐ尊敬できるし、サッカーもクリーンで、審判も変に介入しないし、純粋にゲームを楽しめる貴重な対戦相手。
今日の試合、本当に本当に楽しみだったのよ。
実際、最高でした。




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試合はお互いにインテンシティの高い、球際の激しい熱い攻防が続いていく。
解説の柱谷幸一氏が何度も試合中に言及していた通り、展開が早く息つく暇も与えない、緊張感漂う一戦となった。
スタートは守備がハマっていた鹿島がペースを握っていたようにも思えたが、一発のロングカウンターを横浜が的確に沈め、マリノス先制。オナイウ阿道から前田大然に繋いで粘り、大きくエウベルへ振って、マルコスJrとのワンツーで抉ってクロスをオナイウが丁寧に押し込むというスピーディーでダイナミックな攻撃。本来の成熟したポジショナルプレーだけじゃなくて、キレのあるカウンターも常備しているという二段構え。
動揺した鹿島は先程までのハイプレスが鈍り、攻め手に欠く苦しい感じもあったが、前半のうちに追いつけたのは本当に大きかった。GKのキャッチミスというラッキーがあったのは間違いないが、デザインしてた形に結果的になったような気もする。たぶん荒木遼太郎のキックはGKを越えるような弾道にする予定だったんだと思う。実際はGKに触られるようなキックになったが、マリノスGK高丘陽平がキャッチミスして弾いてしまい、結果的に流れたところに走りこんだ白崎凌兵が折り返し、タイミングはズレたけどそこにいた三竿健斗が合わせるも敵ブロックに遭う、そのさらなるこぼれを拾った土居聖真が苦しい体勢ながらも上手くコースを狙って突き刺し同点。たぶんボールの軌道やGKの動きからシラは裏へ走るタイミングを微調整してたんだと思う。バッチリのタイミングでボールにコンタクトできてるんで、そこの感性から生まれたゴールと言っていいでしょう。
シラの攻守のインテリジェンスは相馬直樹体制において欠かせない要素である。とにかく怪我せず頑張ってくれ。
その後も左サイドの作りからレオシルバの巧みなループシュートクロスバーを叩く惜しいシーンもありつつ、前半は1-1のまま終了。あまりにも展開が早く強度が高すぎて、中継がリプレイやスローモーションを流せないほどに密度が濃すぎる前半。
そしてエンド変わって後半。変わらずお互いに出足鋭い奪い合いの中、行き来するこぼれ球を上手く収めたシラが相手ハイラインの裏へ実に絶妙なスルーパスを供給、抜け出した聖真がこれまた実に冷静にGKとの一対一を制し、鹿島逆転。ボールの流れ自体は偶発的だったものの、シラと聖真のクオリティが光る一撃必殺。
モメンタムを掴んだ鹿島は再びシラ&聖真コンビでチャンスメイク。ハーフスペースに上手く顔を出した聖真へ白崎から送られ、その聖真の持ち上がりにタイミングを合わせてダイアゴナルに長い距離を走った松村優太がラインブレイク。スルーパスを受けた松村がGKとの一対一になりかけたところをマリノスDFティーラトンがたまらず倒してPK。これを聖真が落ち着いて逆を突きハットトリック達成。かつてジーコハットトリックしたあの日(の1日前)から28年。また新たに生まれたハットトリックヒーローは、アントラーズユース出身、プロ11年目の生え抜きエース土居聖真
聖真は技術的には申し分ないのに、同期の柴崎岳昌子源と違って図太さがなく、そのパーソナリティゆえに突き抜けない物足りなさが個人的にずっとあった。もっと図々しく、もっと貪欲に、もっと自分で主役になるべきだとずっと勝手に思ってた。
その中で今シーズン途中から採用されたゼロトップのシステム。手持ちのFW陣が故障で全滅するというアクシデントから始まった苦肉の策ではあったものの、結果的に聖真を突き動かしたのかもしれん。今まで以上に自由と責任を与えられた聖真は今までにないクオリティを見せつつあるし、継続できれば日本代表復帰も見えてくると思う。
さらに勢いづいた鹿島が畳み掛ける。ハイプレスがハマってマリノスのパスワークを遼太郎が引っ掛ける。拾ったレオが粘り遼太郎に繋ぐと、鮮やかなスルーパスで松村を走らせる。寄せた前田大然のタックルにも乱れず爆走する松村の折り返しに走りこんで合わせたのが荒木遼太郎。ディフレクションもありつつゴールに吸い込まれて、4-1。一気に試合を持って行く。
2021年シーズンの鹿島アントラーズ、最大のストロングポイントはこの高卒2年目MF荒木遼太郎の存在である。これは間違い無い。
滑らかで鮮やかな技術、的確で巧みなポジショニング、尋常じゃない視野の広さ、水準以上のスピードと守備力、現代的なトランジション能力の高さ、年齢と童顔に似つかわしく無いクールネスと勝負度胸、そして驚異的なシュート勘と得点力。
柴崎岳土居聖真のハイブリッド。二人を混ぜ合わせ、二人の物足りなさを一切無くした、完全無欠なモダンフットボーラー。
昨シーズンがルーキーイヤーで、初めて見た時もう度肝抜かれたもんね。なんじゃこいつはと。とんでもねぇやつがいるじゃねぇかと。
同期には松村優太と染野唯月。かたや選手権チャンピオン静岡学園のエース、かたや高2で選手権得点王を取っちゃうスーパーストライカー。正直前評判は一番低かったはずだ。
ところが蓋を開けてみたらどうだ。前監督であるザーゴが真っ先に起用し、才能を高く評価したのが遼太郎だった。開幕ダッシュに失敗し波に乗れないチームを力強く牽引し、なんとか最前線へと引っ張り上げたルーキー。流石にシーズン終盤は疲れもあってか消える試合も出てきたけど、ゆうて高卒1年目だったからね。
もはや揺るぐことのない常勝鹿島の大黒柱。現在のフォーメーションであるゼロトップは、荒木遼太郎の才能をフルに活かすべく採用されていると言っても過言ではない。遼太郎のプレイビジョンとセンスが詰まった今のアントラーズのサッカー、ホント見逃せません。
そりゃ近いうちに海外へ挑戦することになるんだ遼太郎は。今のうちに見ておくべきです。
試合はまだ終わらない。スコア上は一方的になったが、まだまだ時間はある。名将ポステコグルーが4枚替えという大ナタを振るうと、コーナーキックの流れからオナイウが綺麗にボレーで合わせ2点差。時間もまだあるし、全然わからんやんけ。
この試合マリノスで印象的だったのはオナイウと渡辺皓太。
オナイウはストライカーらしさを感じさせるいい選手。ゴールパターンも多いし、メンタルも面構えもいい。FWとしての矜持とか美学もありそうで、代表にぜひ食い込んで欲しいと思ってる。
渡辺皓太はやっぱり見所があるね。今日は途中出場でしたが、短い時間でも光るものがあった。中盤3列目からゲームを作れる。長めのパスも的確だし、レベル高いね。いい選手。かつてヴェルディの2枚看板だった相方の井上潮音はヴィッセル神戸で何とも言えない日々を送ってますが、渡辺皓太はロティーナやポステコグルーの元で戦術を学んで磨かれてるはず。さらなる成長に期待大。
俄かに再び揺れ動き始めた試合だが、あのマリノスキラーが決着をつける。ロングボールの処理で高丘がミスを犯し、それを拾ったのが途中出場の上田綺世。ファーストタッチで綺麗にGKをかわし、丁寧にゴールへと流し込むナイスシュート。角度はあんまりなかったし相手DFも戻ってたんで、決して簡単なシュートではなかったはず。でも少ない時間でゴールという結果を出し続けるのは、ホント大したもんだ。
僕が初めてカシマスタジアムで観戦した試合で決めた初ゴールのインサイドキック、昨シーズンの初勝利試合で決めたボレーとスライディングシュート、さらには大逆転の口火を切るアメイジングトラップ&パーフェクトボレー。謎のマリノス絶対殺すマン、上田綺世。頼りになります。
でもまだ腕が完治してなさそうで、無理はして欲しくない。プレスに行ききれてないし、まだ休んでていいと思うけど、でも試合勘は戻して欲しいし、使うと結果出すし、悩みますね。
最後、無駄に鹿島右SBの常本佳吾が退場し、残りを数的不利で戦う羽目に。結局もう1失点するし、直前に投入していたディエゴ・ピトゥカがこういう展開だと全然役に立たなくて、苦しかったね。
アントラーズの右サイドバックは伝統的に、名良橋晃伊東幸敏のようなアップダウン勝負系か、内田篤人西大伍のようなゲームメーカー系か、このどっちかなんだけど、常本は両獲りできるポテンシャルを持っている。一列前の相方次第でプレイスタイルを変えることが出来て、例えば右MFが松村なら彼を走らせるパスを出せるし、例えば右MFがファンアラーノや遠藤康ならコンビネーションからサイドを深く抉る走力を見せることができる。デビューした時から面白そうだなぁと思ってて期待してるんだけど、今日は勉強だったね。流石に前田大然はJトップレベルだからしょうがない。学んでくれ。大きくなってくれ。
ピトゥカは来日してまだまだ試合勘を取り戻す段階。でも先日のグランパス戦は印象的だった。キープ力、展開力はさすがの次元で、コンディションさえ整えばプレス強度も上げてくれそうだし、チームのステージも上げてくれそう。ピトゥカのゲームメイキングにアントラーズがついていかなくちゃいけない。かつてジダンのゲームメイキングに必死で食らいついたレアルマドリーのように。
追いつかれてはまずいと、2日前の名古屋グランパス戦でMOMの働きを見せた小泉慶を投入、その小泉が鹿島りと粘り強いディフェンスでイーブンボールを度々マイボにしてくれてホント助かった。小泉は本当に頼りになるバイプレイヤー。心身ともにタフで乱れない。5レーンも理解してるし、ゲーゲンプレスも理解してるその戦術眼も貴重。大事に使って欲しいね。



長くなりましたが、ナイスゲーム。両軍あっぱれ。