『jeen-yuhs: A Kanye Trilogy pt.1』雑感

Kanye Westのドキュメンタリーが公開された。4時間半。
新作『Donda 2』が謎媒体で発表され、それをどうにかして聴き、あまりの重さとやるせなさにぐったりして。
それでもなんかブログ書こうかなと思って、下調べ的な感じで検索してみると、どうやらドキュメンタリーが公開されてるとの情報をゲット。
Netflixとか面倒くせぇよってところですが、まぁ1980円で映画を見たということにしておこう。
ネタバレ全開で書いていこうか。




#0:03:30
懐かしスターMase & その取り巻きHarlem World
かわいいMaseは昔ストリート界隈ではMurda Maseの名前で無敵のフリースタイルマスターとしてブイブイ言わせてた人らしいんですが、それを全く感じさせない激弱ヘニョヘニョフローとニコニコスマイルでメジャーデビュー。Biggie亡きBad Boyの激動期をPuffとのツートップでバブリーに煌びやかに駆け抜けたスターなんですけど、その二面性は興味深いよね。ストリートモードとスターモード。デビュー後のあの転身は、まるで東京進出後に180度キャラ変した笑福亭鶴瓶のよう。生来の華やかさが表に出ただけなのか、あるいは本当の自分を殺してのセルアウト路線を徹底した究極のプロフェッショナルなのか... その後の彼は引退して牧師になったりもして、その多彩さや柔軟さは逆に今の時代の方が活かしようがあったかもしれんなぁとかテキトーに思った。



#0:04:09
若き日のカニ
このドキュメンタリーのスタートとなる映像にして、主役の初登場シーン。眼鏡のおかげなのか、さっきのHarlem Worldの面々の後に見たからなのか、贔屓目にオーラを感じさせるカニエ。品がある一方で神経質そうな印象も与える。喋るとフッド丸出しで親しみやすさが出てきて、まだちょっと自信なさげな感じも珍しい。そりゃそうだよなまだ19歳ぐらいだし。



#0:05:37
Kobe Bryant
おおKobe... やっぱ引き締まるよなぁ。格が違う。



#0:08:07
Madd Rapper
Madd Rapperっていうのは昔Bad BoyのプロデューサーチームHitmenの一員Deric D-Dot Angelettieのステージ名。Bad Boy中期によく名前が出てきたイメージですが、彼のゴーストライティングというかゴーストプロデュースをカニエがやってたっていう話がありましたよね。Nasの"Poppa Was A Playa"とか。まぁどこの業界にもこの手のゴースト業はあるんですけども。
やり手なんですよこの人は、ちゃっかりラッパーデビューまで漕ぎ着けてるし。そのアルバムにはEminemも参加していて、多分当時BiggieのDead Wrong客演のタイミングでおこぼれをいただいたとかそんな感じかと。ついでにそのアルバムには50 Centの有名なHow To Robも収録されていたりと、今にして思えばニアミスはあったんだなと。



#0:10:05
"Izzo"
あんまり好きな曲じゃないんですがカニエのプロデューサー出世作。呑気すぎるけど、Jackson 5の"I Want You Back"サンプリングという王道っぷりがアメリカ人の琴線に触れるんでしょうか。っていう文章を毎回この曲についてブログで触れるたびに書いてる気がする。
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#0:11:08
Talib Kweli&Mos Def
Brooklyn's Finestサンプルっぽいトラックを聴かせてますが、まぁいくらブルックリン出身とはいえこんなベタなものはBlack StarとしてもRawkusとしても使えないっていう判断になるのはわかる。
やっぱMos Defって最高よね。見た目、声、キャラ、知識、ファッション。又吉直樹みたいな立ち位置のラッパーです。
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#0:12:27
"All Falls Down"
レコーディング風景。
この曲は僕にとってカニエのオールタイムベスト3のうちのひとつ。単純にトラックが良くて心地良いところから始まって、とんでもない歌詞。歌詞が凄すぎる。そんな観点あんのかよっていうのと、その観点をラップした人なんていねぇよっていう。
「車が買えないから娘の名前をAlexis(= a LEXUS)って名付けた」とか「保釈金は出せても自由は買えない」とか「みんな自意識過剰なんだよ、俺はそれを初めて認めたってだけで」とか。
「Syleenaありがとう、君は俺にとってのシートベルトだよ、命救ってくれたから」っていう大袈裟っぷりもカニエっぽくて素敵。
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#0:13:33
R. Kelly
シカゴレジェンドの一人もチラッと登場。しかしこれってあれだよな、例のビデオ事件一発目のあたりの釈明映像か。
今たしか服役中なんだよねKellz、まぁニュース記事を見る限りは当然の判決なんだけど、あまりにもスケールが異常で信じ難いというか、現実とは思えないレベルのね、いやはや... 現実世界にそういうのあるんだなっていう。っていうか上手くやれよアホが。



#0:16:24
industry-ready
カニエのリリックは本当に前代未聞で、まあまあ育ちのいい黒人が真面目だったり欲望丸出しで喋る感じが異質すぎたのよね。それゆえに契約後も塩漬けにされてデビューも後回しにされたんだろうなって思うけど、そりゃレコード会社にとってはリスキーすぎるわ、どう転ぶかわからんもん。大失敗の可能性だってあった。
でもまず大元にトラックの良さがあるから、保証はあったよ。ゲストも一定数呼べるだけのコネもあるし。だから出すことに躊躇する必要はなかったはずなのにね、そこはDame Dashが無能でした。
まぁ出すにしてもゲストフィーチャー多数のいかにもなプロデューサーアルバムにするか、カニエ本人の望む真っ当なソロ作品にするかで揉めたんだろうけど。
そう考えると、プロデューサーがラップかじってみました的な雰囲気ではなく、正真正銘のソロアーティストとして認めさせる期間は必要だったと今なら言える。逆にあって良かったと。
もちろん今があるからそう言えるんだよな。



#0:17:27
Rocafella突撃シーン
さっき先走ってアルバムデビューの話をしちゃいましたが、メジャーディールを獲得するまでも壮絶な闘いがあるわけよね。っていうかそっちが何よりも大変で。
けんもほろろ。箸にも棒にもかからず。辛いシーンになりますが、リアル。これが現実。アポなしとはいえ、まぁ難しいわなぁ。



#0:18:12
"Oh Boy"
Rocafella移籍後のCam'Ronのヒット曲ですな。これは名曲。売れ線ではありますが、Camのラップの確かさと鮮やかなストリートファッションでかろうじてRocafella的なバランスは取れてるのかなと。Do It Again、Oh Boy、What We Doっていう系譜でしょうか。
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#0:18:24
『The Blueprint』
カニエもchanged my life言うてますけど、Jay-Zにとってもね。Just Blazeにとっても。Nasにとっても。
個人的にはあんまり好きなアルバムじゃないな。嫌いじゃないけど、でかい曲があんまりない。何度も聴きたくなるような曲があんまりない。"Heart Of The City"ぐらいかなぁ。あと"All I Need"ぐらい。たまに"Renegade"とか。
僕が好きなジェイのアルバムはReasonable Doubtは当然として、やっぱりBlack AlbumとLifetimeのVol.1かな。
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#0:21:40
DJ Clue
そういやいたよなぁ、なんか謎のエクスクルーシブ楽曲をたくさん抱えてて、そこに安っぽい煽りを入れるだけのオッサン。こんなヤツにも顎で使われてて、地獄だったろうな。
アーティストにこき使われるのならまだしも、こんなゴミみたいなヤツに偉そうにされるのは...
今のDJ KhaledとかDJ Dramaとかはもうちょい腰低いんだろうか。どうなんだろう。まぁでもラッパーたちにはペコペコしてもプロデューサーには上から行くんだろうな。クソやで。
DJなんて何もやってねぇだろうが。ゼロイチは当然やってないし、イチ100もやってないからね。何なんだろうね。
人望はあるんか一応。いやまぁKhaledの楽曲は各々のソロでは実現しないようなオリジナリティが一応ある感じだけど。Dramaはブランド力があるからね。何なんだよDJ Clue。腹立つわ。



#0:22:25
Memphis Bleek
急に自分語りを始める面倒臭い年上のおじさんにも付き合ってあげるBleekのいいヤツ感が最高。どうでもいい話の中で「シカゴで成功してるラッパーなんていないだろ?」って問いかけにCommonって答えてもいいところをあえて答えずに不正解だけどいい線ついた「R. Kellyとか?」って答えて話の腰を折らずに円滑に進める感じがいい。人付き合いの上手さこそBleekが長らく付き人をやれてるところでしょうね。



#0:23:21
Just Blaze
カニエとJust Blazeは同時期に出てきたプロデューサーで芸風もわりと似てるということで、二人はどのような関係なのかと思う人もいるでしょうけど、ここでその一端が垣間見える感じ。カニエは普通にJust Blazeを認めてるみたいだし、Just Blazeはあんまり関わりたくない我流を進んでいくみたいで。
二人は普通に名曲"Touch The Sky"でジョイントしてて、遠からず近からずの距離感なんだろう。組めば最強級のを作れる。でもそこはスペシャル感を出そう。たくさん組んだらもったいない。
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さっき見たら2021年に普通にポッドキャストでディスってますねKanyeがJust Blazeをコピーキャットだとか言って。まぁその放送だとBig Seanもクソミソにディスってるし、まぁまともに受け取る方が馬鹿を見るというか。
メディアが増えた分、発言機会も増え、その分責任感や重みなど無くなった。ビーフなんて気安く認定できるもんでもない。
アーティストはTwitterなんてやるな。ラジオにも出なくていい。発信したいならアルバムを出せ。



#0:24:03
Young Guru
有名エンジニア。雰囲気ありますね、歴戦の強者。



#0:24:18
"Guess Who's Back"
Scarfaceの『The Fix』は名盤ですな。
先行シングルのB面のGuess Who's Backは演者3人のラップが各々すごいので必聴。あえて言えばジェイはしょぼい。
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#0:25:07
Dame Dash
このドキュメンタリーでまたアホとか無能とか叩かれるんだろうなぁ...
見た感じ良い兄貴ではあるんだろうけど、ビジネスマンとしては無難で冴えがないのかなと。閃きとか大胆さとか。
実際デイムと袂を分かってからJay-ZRihannaとNe-Yoを当ててるわけで、この二人はJayDame連立政権だとあり得なかったんではないかと。
最低限のストリートステータスを保持するためにはDameの存在は必要だったろうけど、2005年ぐらいのJay-Zはもうどうやってもセレブリティでしかなく、とってつけたようなストリート要素は嫌味にしかなり得なかっただろうから。
先へ進むためには必然の決別だったんだと思いますね。はい。
ちなみにカニエはデイムのことfather figureって言ってます。理想の父親。
まぁ父親が子育てに積極的に参加すると狂うってよく言いますしね。



#0:25:18
Kanye is a good dude. He has no bad intensions towards anything in the world.
んー... どうですかね。どうなんだろう。悪意はないのか。正直なだけで。Taylor Swiftの件とか、Justiceの件とかも。



#0:26:00
Capitol
このあたりの話は"Last Call"の終盤に語られてる通り。Capitolという白人系レーベルの食指が動いたのは、まぁ納得の行く話ではあるよね。音楽面においても歌詞世界においても、ナードな人向けではある。しかしカニエのクリエイティブネスのスタート地点というか根底にあるのが黒人としての誇りと意地であろう。Capitolだったらその手の主張は抑え目にされていたかもしれない。揉めただろうな。
genius.com



#0:26:36
Rawkus
真実は不明だがこのドキュメンタリーを見る限りでは、Mos DefもTalib Kweliも契約したがってたということは、現場レベルでは認められてる才能であったと。そりゃそうだよな、一緒に仕事したらその凄まじさはわかるに決まってる。でもそういうA&Rレベルのところまでは到達しても、その先の会社のトップ層を納得させるところまでは突き抜けられなかったと。
ここのA&RのAliさんは相当評価してくれててある程度正しい理解を示しながら「君はRocafellaには合ってない」とまで言ってくれてるんだけど。
芸風はRocafellaっぽくないんだけど、本人のブレイクきっかけを思ったら違和感はない。それにRocafellaのファンベースがあるっていう安定感はある程度重要だったかなと。売れてチャートに入ることでまたさらに多くの人に知ってもらえるからね。知ってもらえさえすれば何とでもなる。そこさえ越えればっていう。カニエはそこだけがネックだったと思う。知ってもらいにくいキャラというか、アンテナに引っかかりにくいキャラだから。
あとロウカスだとインディーすぎるんでね。メジャー志向の強いカニエ本人がそういう立ち位置を望んでなかったと思う。



#0:45:52
Doug Infinite
ここの件は酷くて、昼間に和やかに会話してた先輩が、夜になってラジオでディスってくるっていう。内容は「カニエが雑誌のインタビューでお世話になった師匠として自分の名前を出さなかった」とのこと。

ヒップホップ・コミュニティでは顔を立てる、潰すといった話は深刻になりやすい。
by ドキュメンタリー『jeen-yuhs カニエ・ウェスト3部作』第1幕レビュー

んー、アホくさ。



#0:49:09
At the end of the day man, I don't own nobody nothing except for my mother
ラジオでも弁明する羽目に。いろいろ言った後に最後一発本音を。
まぁでも日本人の僕らが思ってる以上にアメリカ人にとって地元は大事なんですよ。大きなアイデンティティ。そんなの政治家でもないのなら地元なんて程よく利用してあげるくらいでええやんと僕なら思っちゃいますが、アメリカ人にとっては地元の支持を失うというのは死活問題。
それでも嘘をつかず最後には言っちゃう。いや全然いいよ。むしろ言うべき。



#0:51:40
Donda West
母親登場。ここがね、間違いなくこのドキュメンタリー4時間半のベストシーン。
弱気に沈む息子を励ます言葉たちの美しさ。
「あなたはMichael Jordanがフリースロー決めるぐらい簡単にトラック作るマスター」
「巨人は鏡に写った自らの姿を見ることはできない」
「あなたは傲慢じゃないわ、ただ実力が内側から溢れ出てるだけ」
「地に足をつけたまま、同時に空高く舞い上がりなさい」
刺さるものがあった息子カニエの表情も印象的。静かに頷きながら、未来を見据えて思いを巡らせている。
このシーンは、僕も涙した。人間の美しさ、親子愛の美しさ。幸せだし、なんか嬉しくなった。最高やなと。
Dondaさんを見るためにNetflixに金払ったと言ってもいいぐらい。
必見。



#0:59:39
Rhymefest
ライムフェストは結局ドキュメンタリーの最後の方までずっと出てて、まぁ間違いなくゴーストライティングの主力なんだけど、思いのほか頼ってるんだなと。



#1:00:27
Scarface
Scarfaceのレイカーズユニの似合わなさは笑えますが、本人がその気なら良いんですかね。
カニエはカニエで野球ユニ着てますけど、これはアストロズノーラン・ライアンのやつで、ヒューストン出身のScarfaceへのリスペクトがありそう。それを理解してもらえたかは不明ですが。
ゲストヴァースをもらおうとして聴かせてみると、トラックへの賛辞はあったものの、ヴァースは結局もらえず。Jesus WalksもFamily BusinessもScarfaceに合うはずなんだけど、この世界観に入っていくのは厳しいと判断したんかな。
まぁでも確かに『The College Dropout』にScarfaceは結果的に居なくてよかった。似合わない。



#1:04:50
You Hear It First
ここのインタビュー映像は精神バランスも良く安定、発するメッセージも強くてかっこいいよね。
「"グラスの水が半分なくなってる"ではなくて"グラスの水が半分残ってる"っていうモノの見方をするんだ」



#1:13:29
Izzoで踊る謎オバサン
この人見たことある〜っていう普通の感想で申し訳ない。
Through The WireのMV冒頭でなんか喋るオバサンですよ。
誰やねんコイツって思って、カニエのリアクションも死んでて、何なんだっていう冒頭なんですが。
どうやらフッドで普通にすれ違っただけの人らしい。
フル尺でこの人との絡みを見せられると、何とも言えない気持ちになりますね。あーいるよなこういう喋りたがりの邪魔なオバサン。
www.youtube.com



#1:19:18
手すりを滑るKanye
このシーンも見たことある。
そっか、昔住んでた家を見て再び奮い立つその流れでの一幕だったんだなと知る。
何気ない数秒だけど、強い思いと意志があるんだとわかって、もう一度ちゃんと見なきゃねあのMV。つい数行上に貼ったやつをちゃんと見よう。 



#1:21:16
Pharrell登場
Dynasty Tourということで、"I Just Wanna Luv U"のサビを歌ったりしたんだろうな。
ここでの絡みは一瞬だが、このあとめっちゃ絡みあるので少々お待ちを。




ということでとりあえずパート1はこれくらいで。
本当は一気に3パートを1記事でまとめたかったんですが、長くなりすぎるかもしれないので分割。
また明日。