#17 "Spotless Mind" Jhene Aiko

ここ最近のフックゲームにおいて確かな存在感を示していた彼女ですが、待たれていたフルアルバムもやはり持ち味をしっかりとこめた、理想的な内容になっています。
Jheneさんといえばあの声でして、Yummy Binghamあたりを思い出させるような、青くて幼いボーカルが、とっても心地よい。雄雄しいなヒップホップの中でも癒しとして機能するし、ソウルフルなR&Bの中でも少女のイノセントな響きとして胸に訴えるものがある。
大きく分ければ、Drake以降のアトモスフェリック系というジャンルに位置するんでしょうが、もっと雄大でスケールが大きく、おおらかで伸びやかな音楽。街の喧騒から離れ、独立した時間をゆっくりと丁寧につむいでいるかのよう。
言っちゃえばEnyaみたいな感じか。
ただ、エンヤさんは神話世界を描いているらしいけど、ジェネイさんはもっとミニマルな、日常の小さな瞬間をキャプチャーしている。
その背後にあるのは、仏教的な価値観。
特にこの楽曲Spotless Mindは変化に対する捉え方を切々と語っており、スタンスとしてはホントわかりやすく諸行無常を受け入れるんだという、そういうふうになっております。
アメリカ人はとかくこの変化、つまりChangeが好きな民族のようでして、Barack Obamaから2Pacまで、あらゆる場面でこの6文字を目にしますよね。
変わる、変えると同時に、変えたいけど変わらないものがあるという、そういう諦観もこのchangeには含まれている。もちろん態度では出さずにあくまでも強気、世の中を生まれ変わらせると豪語しているけど、心の深いところでは薄々感づいている。薄々どころか、がっつりと理解している。世の中、変えられないものがあるということ。
2Pacは実直にそこを吐露した。たくましいget up stand upなアンセムを用意するっていう安易なやり方をとらず、認識にショックを与え、強く印象付けることを選んだ。
Jheneさんはどうか。
そこからもう一歩先の、受け入れること、受け入れられるという強さを描いている。
儚い世を嘆いて立ち尽くすのではなく、全てを受け入れ、また再び大地を強く踏みしめる。価値のない世の中に絶望した上で、そこからまた新しく価値を創造していく。
これって、ニーチェだね。書いてて気づいた。
あんなボーカルで、あんな優しい感じなのに、実は誰よりもタフな言葉を並べていたんだ。
実は実は、Lauryn Hill以来の女性ヒップホップ。そんなことも言えそう。


最後にひとつ。
Lanikaiは本当にナイスよ。これは間違いない。

続きを読む