ごめんOne Loveだけは好きじゃない

この土日はまとまった時間がとれたので映画を観てました。
映画鑑賞は嫌いじゃないし必要だと思っているんですけど、全然やってませんね。最後に観たのは踊る大捜査線の2番目とか?古っ。いや、ボーン・アルティメイタムかな。ちょっとわかりませんけど。
映画音楽っていいよね。やっぱりスケールが大きくて、いつもと違うワクワクがある。
とりあえず3本観ました。全部ヒップホップムービーの類ですね。


1) Wild Style (1983)
いきなりのド定番。いっつも偉そうにヒップホップについて書いてるくせにコレ観てなかったんかいっていう話ですけど。
誰か言ってましたが、映画っていうかドキュメンタリー番組的な感じ。80年代というヒップホップが大きく進化していく勢いがあった中の作品ですね。商業化の手前、まだ才能と情熱でもって皆がdedicationしてる頃。
ヒップホップの5大要素である「ラッパー・DJ・ヒューマンビートボックス・ダンサー・グラフィティ」の中でもわりかしグラフィティを取り上げている感じか。
皆で大きく文化の流れを作っていく様子にすごく熱があって素晴らしい。映画というには編集が雑で何の脈絡もない展開が続くが、当時の迸る勢いはピュアな魅力があって大切である。時折見返すべき重要な何かがここにはある。
今観るなら一番の盛り上がるポイントは「And you're sitting home doing this shit?」に始まるやりとりですね。ああ、コレ聴いたことあるぞと。そうですね、NasのThe Genesisのイントロに引用されている一節。最後にZoroっていう人がThisと言う意味。この4文字に託された果てしない想い。Wild Styleの方が先で、The Genesisが後なんですけど、このThe Genesisがあるからより強くThisが響くし、またWild Styleの存在によって逆にThe Genesisが重みを持ち、ひいてはIllmaticの存在意義が濃厚に強く刻まれるという、お互いに影響し合っていることを思った。
こうやって知っているフレーズのルーツをたどっていってそれを得られる瞬間というのは、哲学書を読んでいて学校で習う有名な句にたどり着いた時の興奮と似ている。方法序説を読んでいて、終盤に「われ思う、ゆえにわれあり」に到達したみたいな。あの無邪気な興奮に似ていて、なんか心地よい。


2) 8 Mile (2002)
まさかのこのタイミング。今更すぎますけど、しゃーない。
ご存知Eminem主演の青春映画。予想されていたとはいえDQNすぎる内容に軽く引きますけど、現実はこれ以上に過酷だったことは間違いない。Debbie Mathersはもっとキチガイやし、Kim Scottはもっと病んでいる。まぁその代わりProofはFutureよりも地元における大物だったと思うし、Paul Rosenbergの存在は確実にEmを支えていたはず。
時系列としては初期の3部作があって、この映画に流れていくわけなんですけど。
3rdのThe Eminem Showというアルバムはよりセレブリティとしての振る舞いを意識したアルバムであり、その客観性でもってEminemという白人ラッパーが抱えるジレンマというか呪縛からの解放を期待できたはずだった。The Eminem Showによって、状況を整理し無駄なハイプを鎮める。音楽の内容とは無関係に捉えられるイロモノ感からの脱出。そう考えると、きたる4thアルバムはより正統派な真っ当なアルバムを期待できたはずだった。それこそRecoveryのような、ごく真っ直ぐなヒップホップアルバム。
実際は、その真っ当さを表現することになったのは、この映画であった。誤解を恐れずに言えば、このアイドル映画こそがEminemが目指し憧れていた到達点である。こういうrawなヒップホップをやりたくてもやれないという、複雑で困難なジレンマを抜けた先のひとつのゴールであった。
しかし、映画でそれを実現したというのは、ちょっとセレブリティ感が強すぎたのかもしれない。さすがにハリウッドすぎたのかもしれない。
能天気な人間ならそのまま呑気にハイオフライフを満喫してスターラッパーとしての日々を堪能したのだろう。でもEminemは状況を見過ぎちゃう人で、慎重でシビアなんだよな。やっぱり白人ラッパーとしての在り方を自問自答し続けてきた人なわけで、それはもちろんヒップホップへの愛とリスペクトから来るものであって、8 Mileという映画は心の中でちょっと後ろめたさにも似た冷たい感触を残していたんじゃないかと。
浮かれる姿は見せられない。本来こんな感じのステータスを得られるような人間じゃないんだっていう。
だからここでも根底にあるのはdedication。50 Centをフックアップして助けたのもヒップホップへの貢献。Just Lose ItそしてEncoreとリリースし道化に戻っていく様もまた、彼が当時考えた彼なりのヒップホップへの貢献なんだろう。
もし8 Mileなどこの世に存在せず、2004年頃にEminemがRecoveryのような正統派のアルバムを出したとして、世間やシーンはそれを許したのだろうか。Eminem本人はそんな自分を認めることができたのだろうか。
楽しい妄想だが、無駄である。考えないでおく。
結果的には親友の死、さらには自らも死の瀬戸際を彷徨いながらも辛うじて生きることができて、そうして初めて新しい境地へとたどり着くことになったんですけど。
全て必然か。起こるべくして起きていたんだろうけど。
個人的には捉えどころが難しい、キャリア分岐点の出来事だと思っている。


3) Time Is Illmatic (2014)
元々ヒップホップ映画を見ようと思ったのは先日公開されたらしい『Straight Outta Compton』を見ようと思ったからで、その流れで見てない映画見とかないとっていうノリで始めたんですね。
Wild Styleからもうちょっと先、かつ8 Mileよりも前の時代。1994年という、ヒップホップ史にとって転換点となった年。
Ready To DieとかRegulate... G Funk EraとかTicalとかResurrectionとかSouthernplayalisticadillacmuzikとか。Hard To EarnとかSuper TightとかThe Main IngredientとかThe Sun Rises In The EastとかIll CommunicationとかProject: Funk Da Worldとか凄まじい1年じゃないですか。
そしてその頂点に位置するのがIllmaticというアルバム。
映画として何か新しい情報はなかった。大体が聞いたことのある内容。
ただ映像が重くてずっしり来る。クイーンズの町並みはシンプルで素っ気ないんだけど、それが絵として美しくもあり、そこに潜む狂気をさらにえぐいものへと強調していて、すごかった。
一番すごかったのはPete Rockで、あの大名曲The World Is Yoursのトラックメイキングをこともなげに語っていましたが、あの流麗なジャズのインストゥルメンタルからあの魂揺さぶる美しいヒップホップトラックを作ってしまうPeteの激しい鬼才っぷりがあらためてヤバい。何度も聴いたあの曲のトラックの生まれたマジックを目の当たりにして、ヒップホップの懐の深さを再確認した次第である。
あとやっぱりまぁNasは違うよなぁっていう当たり前のこと。いい家庭で育っているし、意識も高いんだよな。知識の大切さをわかっているし、本質を理解している。
いい映画だった。映像が美しく、構成も巧み。
こういう映画を作らせてしまうIllmaticの偉大さ。こういう映画を成立させることができるヒップホップアルバムなんて、そうそう無いはずさ。
息子が産まれたら、Illmaticを聴かせよう。こういう男にならなくては。世界を捉え、考えること。
まぁでも人付き合いは大切にね。