『Teflon Don』を迎えるにあたって

基本的に南は四天王が君臨していて、T.I.、Weezy、JeezyにRossの4人がそれに相当すると思うんだけど。
Rozayが一番作風を弄くっていて、一番軌道に乗せているような気がします。
ファースト『Port Of Miami』は手広くて、ノーマルtrapからスカーフェイス、Def Jam風情に歌モノまで満遍なくこなしていました。"Hustlin'"のスクリューフックはリングトーンに最適だったけど、下手したら一発屋に終わる可能性もあの時はあったと思う。独特の巨漢声は気持ちいいけど、作品に特筆すべきポイントはないかなぁって。アルバム全体としては散漫だし、一曲一曲は平均点付近に留まってたし。
セカンド『Trilla』は焦点を絞っていたけど、絞られて残ったのはJeezy以降の定番trapということで、個人的にはマンネリというか飽きを感じましたね早い段階で。"The Boss"や"Speedin'"といった曲たちのクオリティはなかなかのものがあったけど、なんかもういいよ、もういいって、とか思いましたね当時。結果的にはこのセカンドでもRoss本人のアイデンティティが確立されるには至りませんでしたが、地味にアルバムに組み込まれていた"We Shinin'"と"Here I Am"は次作に繋がる雰囲気だし、Ross屈指の名曲であり最新作でもシリーズが続いているRossの代表曲"Maybach Music"もここに収録されていたりと、布石みたいなものは幾つかあったわけです。
セカンドとサードの間には例の看守事件が発生してしまうんですが、ここがひとつターニングポイントになりましたね。ラッパーにとって一番マズイ展開であるフェイク発覚、これをむしろ逆手にとり、セルアウトにならない許容ラインのギリギリを狙った楽曲作りが始まりました。どうせリアルギャングスタではありませんよ、だから何やってもいいっしょ、多少売れ線でも文句ないっしょ、というヤケクソ逆ギレなスタンスは、ひとつRossのアイデンティティになった印象があります。
で、Rossがネクストレベルへと達したサード『Deeper Than Rap』が登場します。継続していくつかのtrapチューンが演じられていますが、あくまでもそれは脇を固める曲であり、アルバムをメインに構成するのはキャッチーで音楽的に豊潤な、大人のヒップホップである。歌詞のテーマにさしたる変化が見られないのもよく考えたら笑える話だが、トラックが実に素敵になったため、一流のエンターテインメントが実現されていると言えるでしょう。"Magnificent"や"Rich Off Cocaine"、"Usual Suspects"といった楽曲たちの完成度は総じて高く、頼もしかったですね。またこういう作風にまろやかな声質が実に合うんですよ。
巨体がキャッチーなトラックに乗っかる。Puffにも認められるくらい、Rossは新世代のBiggieとしての地位を築き上げ、揺るがないアイデンティティを手に入れたのです。

で2010年、『Teflon Don』に至るわけですが。
その過程にて、4つほどシングルが切られていますね。その内容の推移が興味深いので、一つずつ見ていきましょう。
まずは年頭にカットされた"Mafia Music 2"。『Deeper Than Rap』所収の1はジワジワとストイックに重ねるハードな名曲だったが、2はChrisette Micheleの儚げなボーカルが揺らめくメロウな名曲ですね。「resurrected Big Poppa in the physical」というラインに本人の立ち位置、自覚、決意みたいなのを感じました。ただ、曲の頭とケツが冗長だったんで、多分アルバムには入ってこないだろうな、という予想は立ちました。実際TDには入りませんでしたね。
続いて4月くらいにオフィシャルなシングルとして"Super High"が出てきました。これは凄い曲だ。自家用ジェットで悠然とレイドバックしながらハッパをキメるような、見事なトラック。新世代Biggieを自負するRossにしか成し得ないようなアダルトなクラシックですね。この時代に往年の名プロデューサーClark Kentを引っ張り出してくるセンスも最高だし、サビを担当するNe-YoのパフォーマンスもまるでMJが憑依したかのような充実感がある。若干Rossのラップが手緩いのだが、こんな素晴らしい曲を先行カットに持つアルバムは、一体どれだけの傑作に仕上がってくるのか、もうホント楽しみでならなかったね。もう滅茶苦茶発売日が待ち遠しくて。
しかし、ここから少し風向きが変わるんです。
Prequelとして世に出たミックステープ『The Albert Anastacia EP』から2曲がシングルカットされます。"Money Maker"と"B.M.F.(Blowin' Money Fast)"。これらが、なんと実にありきたりな(そして、実につまらない)trapチューンだったりするから、さぁ大変。
最初僕も、まぁこれはあくまでもミックステープからのカットであって、まぁ本編には無関係だと、ちゃんと本編では"Super High"みたいなRossが聴けるだろうと、状況を楽観視してたんですが。
なんか、後者は『Teflon Don』に収録されるみたいですよ、"B.M.F."。んー、まぁ好きにしてくださって結構ですけど、そんな大した曲じゃなくね?『Deeper Than Rap』にはこのレベルの曲は入ってなかったと思うんだけど。
しかも、なんか『The Albert Anastacia EP』からもう一曲、"MC Hammer"も入るみたいです。これも"B.M.F."同様ハードめのtrapなんですが、そんなに優れた曲には思えないんだよなぁ。一応TDには新たにゲストとしてGucci Maneが加わったバージョンが収録されるみたいだけど、そんな一人ゲストを組み込んだだけで曲が劇的に飛躍するとも思えんし……


ということで、発売日を前にして語れることは以上であります。
果たしてTeflon Donはハードなのか、キャッチーなのか。

その答えは……………………7/20を待てっ!