財布をスイッチしただけっていう名ライン

また今年も3月9日がやってくる。BiggieことThe Notorious B.I.G.がこの世を去ってから、18年もの時が経とうとしています。

彼の音楽的遺産は数えきれないほどあるんですが、シングル戦略ですね、ハードコア曲とラジオフレンドリー曲をバランス良く発表していくというスタイル、こんなのは当たり前すぎる戦略として各々アーティスト方は活動していると思うんです。これを最初に始めたのはBiggieさんじゃないでしょうか。
JuicyとUnbelievable、BigPoppaとWarningっていうシングルの抱き合わせ。今となってはごく自然なマーケティング・フォーメーションという感じですけど、当時としては画期的だったとお聞きしています。


今回はDrakeについて書こうと思ったんですよ。
まぁ、現シーンにおける最重要人物のひとり。というか2トップですよKendrickLamarとDrakeの2トップ。
DrakeもBiggie発祥のシングル戦略を展開しています。昔と違ってA面B面みたいなものはありませんが、それでもOverとFindYourLoveがあって、HeadlinesとMarvin'sRoomがあって、StartedFromTheBottomとHoldOnWe'reGoingHomeがあるこの感じ。やはりBiggieパターンと言って差し支えないヤツでしょう。はい。
注目すべきは、ハードコア曲として発売されているシングルたち、これが軒並み機能していないというか、評価されていないことですね。全くといっていいほどストリートに響くこともないし、何か野郎どもに熱く支持されるみたいなこともない。そんな曲出すだけ無駄じゃねぇかとなりますよね。はい、僕もそう思います。正直誰もDrakeによるハード路線は求めてないんですね。何のために行われているんだって思いますけど、まぁ完全に自己満の域を出ないオナニーシングル的なもんなんでしょう。
何と言うか、ラッパーを志したものですから、やっぱり格好良くありたいと。厳しくタフにラップする自分を夢見るわけで。そりゃ歌うラッパーになろうなんて誰も思わん。ストイックなフローをかますラッパーになりたいに決まっている。
それだよね。OverとかStartedFromTheBottomの存在というのは、昔自分が夢見ていたラッパー像に忠実な、そういう曲なんですよ。
理解できるよ。全然変なことではない。それはそれでリーズナブルだ。
ただ、問題はDrakeによるそういった曲が尽く退屈なんだよな。StartedFromTheBottomとか何も楽しくないからね。根本的にDrakeの曲というのは、ラップがイマイチで単調になりがちなところを自分で要所要所を歌うことによって展開をつけて魅せていくスタイルであり、歌なしラップオンリーだと本当に間が持たない。これはね、ラップが下手だから。
Nasだとこうはならないんじゃないか。まぁ、一番巧いような人を比較に持ってくるなというのもありますが、やっぱりラップが上手い人は言葉がきれいに流れていくんだよ。フローっていうからにはある程度は淀みなく流れていかなくちゃいけない。その上で韻が巧みに散りばめられていること。言葉をリズムに乗せて発しているだけなのに、メロディアスに響くあの感じは、ラップが上手い人ならではだよな。
Drakeは基本棒読みだからね。棒読みだし、韻の配置も単調だったり、あんまり褒められたものではない。
ラップだけで構成すると、どうしてもその欠点が前に出てしまう。
ハード曲で良かったのもないわけではないけど、大抵の場合はゲストが呼ばれていて、ゲストの存在で目先が変わって助かるパターンがほとんど。UptownとかLordKnowsとか。
唯一、唯一と言っていいタフ・クラシックはWorstBehaviorですね。この曲ホント好きで、全編ラップですけど、言い切り調のヴァースがきまってるし、声ネタを交えたフックも巧みな出来、三番はMaseから頂戴していて間違いないし、この曲は抜群ですね。自分で文章書いて気づいたんですが、この曲も純粋なラップなのかと言われると微妙なとこですね。1番2番はあんな感じだし、3番も引用でしかないし。まぁでもナイス。


さて、先日のバレンタインデーに唐突にリリースされたDrakeのMixtapeですね、IfYou'reReadingThis,It'sTooLateとかいうオマエ何言ってんのっていう感じですけど、きたるフォースアルバムを前に一発届けられました。
最近だんだんとこの手のサプライズリリースが増えてますよね、情報統制も大変だと思いますが、頑張ってください。
言うまでもなくDrakeはミックステープ世代のラッパーです。最近の人たちはどうか知りませんが、やっぱりハングリーにジャックしてアピールを重ねてディールを狙うというやり方、これってすごく健全でいいことだと思うのよ。たまたま通りがかったHovにフリースタイルを聞いてもらってRocafella入りが決まるみたいなことです、まぁアイツも忙しいからね、それの現代風バージョンみたいな趣でいいじゃんね。
RoomForImprovementとComebackSeasonがあって、Weezyとの出会い、そしてSoFarGoneへと繋がっていく。
ここらへんはヒップホップ的にも革新が起きていて、ミックステープでのスパーリングを終え満を持しての大ヒットを起こしたWeezyの存在、さらには808's&Heartbreakという現代ヒップホップの礎を築く作品を作り上げたKanyeの挑戦。この諸々はめちゃくちゃDrakeと相性がいいトピックスなんですよね。タイミングに恵まれていた。
ミックステープは3つとも出来がいいので、聴いてみてください。SoFarGoneはもう言うまでもなく歴史に残る名盤だし、初期の2つも青くてフレッシュな仕上がり。今のスタイルと大きく違うこともないので、未聴の方はぜひ。


そんで今回のIYRTITL。
特徴としては、Boi-1daによるプロダクションが多くを占めているんですけど、そのためか、全編ストイックに構成されている印象がありますね。いわゆるハード路線が大半を占めています。
それでいてトラックやフックに工夫がないので、えらく単調で見どころの少ない、のっぺりとした作風に終始しています。
まぁ、つまらんよね。
このミックステープをきたる4枚めViewFromThe6のプレビューとして捉えるならば、もうホント絶望よ。なんてしょうもない前座なんだと。
まぁそんなことはないはず。大丈夫。今までシングルで出していたハード路線を、アルバム単位で出しただけだと思う。つまりこのミックステープ全部がOverとかStartedFromTheBottomの果たしていた役割を担うっていうそれだけじゃないかな。
DrakeのメインプロデューサーはNoah40Shebibだからね。なんかメジャーデビュー前後のForeverとかBestIEverHadあたりの印象でBoi-1daがメインパートナーかとみんな勘違いしたと思うんですが、核となるのは40さんの方です。今回のミックステープに彼の曲は少なかったですから、たぶん4thの方に温存されているはず。
温存は大事。いいメロディが思いついても、それをミックステープで披露するのはもったいない。アルバムで披露しましょう。
だから今回のミックステープの出来はどうだっていい。Drakeおなじみの自己満が終わって、次からが本番。
40によるJungleって曲があるんですけど、やっぱりこれよ。このクオリティが待っているはず。
楽しみにしてましょうね。
はい。