まごころがつかめるその時まで

先日、病院で医療安全のセミナーが開催された。これは大学病院ではよくあるやつだね。
平たく言って、まぁ医療事故のないようにやりましょう的な話で、事故を起こさないためにはまず隙のないシステムの構築が大事っていうところから始まる。オーガナイズされてて上手く繋がって行くシステム構築。これも定番のお話。
ただ個人的な考えを記しておくと、やっぱり医療とは人間が関わって行くモノなので、メンタルを完全に無視することはできないと思う。
昔、青木宣親とかイチローが「メンタルまでをも技術でカバーできるようになりたい」って言っていた。確かに理想はそうなると思う。医療安全だってそう。感情が入り込む余地のないシステム作りが究極である。
でも現実的ではないと思うね。やっぱり人間が携わるのだから、その精神の揺れが少なからずパフォーマンスに影響を及ぼすと考えるのが結局はリーズナブルだと。
まぁ野球と医療じゃあ全く同じとはならない。野球とは失敗のスポーツ。青木もイチローも10回打席に入って少なくとも6、7回はミスをする。医療はノーミスが大前提。
つまり僕が言いたいのは、多少は動くにしても確固たる気構えというのも絶対に大事で、医療安全の講習を行うのであれば、そこにもわりと本格的に触れてほしいということなのよ。
あんなにシステムのことは喋るくせに、メンタルについて言及することはほとんどない。なくはないにしても、さぁみなさん頑張りましょう的な暢気な号令レベルでしかない。システム論については成り立ちとか歴史とか紐解いて行くくせに。
精神について踏み込んで行くのであれば、やっぱり医療人というよりも単純にひとりの人間として、精神世界と向き合う必要がある。
だから、こういう医療安全の講習のトピックの中に、「倫理」があってもいいんじゃないかってこの前思った。
医療倫理という狭い話ではなく、もっと大きな、それこそ高校の授業でならうような倫理を提示することは、決して違和感のある話ではないはずだ。
ソクラテスとかプラトンとかからスタートしてもいいけど、あんな短いセミナーで人類の思想の歴史をたどって行くのはなかなか無理なところ。
そうなってくると、やっぱり一番わかりやすく真っ直ぐに指針を示す倫理ネタで言えば、やっぱりサルトルをおいてほかにないと思う。
前にもこのブログでアイドリング!!!について書いた時にサルトルの名前を出した気がする。
今の時代にマッチしてるし、メッセージ性も充分だと思うのよ。
「自分ひとりというのは社会を構成する一要素ではなく、むしろ社会そのものである。自分の生き様や振る舞いが社会に大いに影響し、そのまま社会となるのだから、清く正しく社会を創りあげて行こう」
僕も歳を重ねて、生々しい現実を十二分に理解したので、なんとなくこういう切り口の思想に活路を見出して行ってるんだろうな。己を信じて正しく生きて、世界ごと巻き込んで突き進む。
まぁこれもけっこうな理想論かもしれんけど、この考えのもと生きて行けば、まだなんとかこんなしょうもない人生の日々もそれなりに肯定することができると思うので。
病院で働く人たちもみんな、このサルトルのメッセージを軸に、あらためて気構えを創りあげてほしいけどね。


サルトルとか今まで受けて来たセミナーで一度も発されたことのない言葉やで。
そういう精神の話をする講師の先生とかいるんだろうか。
いや、たぶんいるよね。いるんだけど、そういうレベルの先生を呼んでいないというか。そういう先生を呼ぶって言う発想にすら至らないレベルの医療従事者しかいないというか。
浅いんだよ。とにかく浅すぎる。


倫理ってすごく好きな人と、まったくのアレルギー反応を示す人の二分化されるよね。
わかると思いますが、僕は倫理の授業は好きでしたね。
やっぱり学生時代にはとにかくニーチェの考え方に憧れてましたよ。
我らがキャプテン長谷部誠も一時期傾倒していたことでも知られるニーチェ
「神にすがっていれば生きて行けるわけではない。神様は死んだ。現実は厳しく残酷なものである。だけど、それをただ虚しく諦めるのではなく、敢えて真っ直ぐ受け入れた上で、自らその人生の新たなる価値を見つけ創造して行く。この過酷な現実を超えて行けるような、それこそが超人であり、超人を目指す。現実の単調で息苦しい繰り返しの日々すら愛すことのできるような、そんな人になろうじゃないか」
もう漫画の主人公とか、セカイ系ライトノベルの主人公のような世界観。
こういうのって、少なくとも日本人は好きだと思うのよ。日本男性は、やっぱりこういう中二病ネタとか大好きだと思うよ。


日本人の持ち味のひとつにこういう精神世界への高い感受性があると思う。
そのわりにはあんまりこう世界に進出していく哲学者がいないのは、やっぱり精神の高みが他の国々とは違うからだと。
繊細だし、気が利くからね。
そんなの外国の人がわかるわけない。自分たちにはない精神構造なのだから、ないものは理解できない。
やっぱり和辻哲郎がナンバーワン。
もっと日本人はそこを意識してほしいのよ。自分たちは精神の世界で他の国の人を上回っている。絶対に。
だからいかなる瞬間も臆することなく、誇り高く振る舞うべきなんだ。
Physicallyに劣ったりしたところで、mentallyに負けるわけがない。絶対に。
胸を張って生きてこうや。