No.10 『Terminate On Sight』 G-Unit

ずいぶん時は流れ、もはや完全にone of themへと成り果てそうな最近の50 Cent。ヘタしたら嫌われてる?
このアルバム『Terminate On Sight』も初動10万枚ほど、4週目ぐらいの『Tha Carter 3』に負けるぐらいなんだから、ヤバい。黙殺...

ただ、実際の人気はどうなのか、正直よくわかりません。
この前たまたまメジャーリーグのディビジョンシリーズを見る機会があって、ボストンがアナハイムを破ってリーグ優勝決定戦進出を決めて、それを祝うシャンパンファイトが映ってたんだけど、松坂大輔のインタビュー中に後ろで流れていたのが50の"I'll Still Kill"でした。あー流れてる思ってたら次の曲が"I Get Money"だったんで、あーこれは『Curtis』垂れ流しですねと、誰かのラジカセで流してるんだろうと推測します。
こんな一例で判断するのもアレですが、まだまだ捨てたもんじゃないでしょう。
ミーハー層がいなくなったことで前より寂しく感じられるだけで、本当はまだ余裕のトップクラスの人気だと思います。上から数えて9番目くらいの、ってテキトーだけど。
いや、逆にいったん底辺に落ちた方が本人的にもやりやすくて都合良いのかも。
元々50は、1999年に"How To Rob"でメジャーの表舞台に登場しているのだが、その曲の内容というのは、憎たらしい(くらい好きな)ラッパーたちの悪い所、痛い所を突いていくモノでして、これは言うなれば、波田陽区スタイル...つまり、元々50 Cent波田陽区ラッパーである。その後2003年にEminemのフックアップを得て一躍スーパースターに成り上がる50ですが、2ndアルバムには"Piggy Bank"、3rdには"Fully Loaded Clip"と未だにHow To Rob曲が存在してるあたり、得意なスタイルなんでしょう。そして、そういう波田陽区的な芸風で行くためには、ある程度自分が低い身分でいなきゃいけないよね。最近の没落は逆に上手く活かせそうだし、50なら上手くやるはずだ。
その手始めとして、自らthisis50.comというホームページを活動基盤にし(=メジャーレーベルからの支援を受けない)、かつてのようなミックステープをコンスタントにリリースしたりするなど、よりstreetに根差した活動に切り換えたのも好感が持てます。いいですね、自分の現状をしっかり理解してるし、戦略に間違いは無い。
ミックステープはG-Unit全体で7個ぐらい出ていて、そのうち50絡みなのは3つ。『Sincerely Yours,Southside』こそ、昔のソウル曲のオケにまんま乗っかる(GFK的?)スタイルでさすがに無理があったが、残りの2枚(G-Unit名義)はかなり楽しめたでしょ。『Return Of The Body Snatchers』はキャッチーな50節満載で、『Elephant In The Sand』は実にバンギン。そんで、どっちもラップがタイトなのよ。間の取り方とか、フック作りとかも依然として素晴らしいし、かと思えばFat Joeの弛んだ肉体をジャケに使ったり、The-Dreamの名曲"I Luv Your Girl"の替え歌"I Fuck Your Bitch"を作ったり、余裕も見せる。硬軟のバランスがよろしいね。

で、そろそろ本題の『T.O.S.』について。
良かったんじゃない?アルバムタイトルから勝手にバンガー寄りな内容を予想してましたが、案外ワイドレンジの、なかなかに味わい深いモノでした。突出はしませんが、悪かない。まあ一聴では地味ですが、"Rider Pt.2""Get Down"みたいなのから"Piano Man""Close To Me"みたいなのまで、もれなくタイト&キャッチー。飽きずに一気に聴けるから、まあまあ良いアルバムだと思う。まあ地味なんだけど。
欲を言えば、曲順は別に問題ないから、一曲目に"Straight Outta Southside"を持ってくるなら他の曲も同じくらいのクオリティにしてよね。原曲がアレなんだから最高に決まってる"Straight Outta Southside"がスタートなせいで、他の曲を聴くときにハードル上がっちまって...
あと、Yayoのライム、「Now keep game like Pelle and Beck on」と「I Steve Nash these hoes,pass 'em all day」はアカンわ。特に前者の裏の意味、「ペレやベッカムのようにゲームを支配する」...サッカーも徐々にアメリカでメジャーになってきたっていう証拠か。