No.4 『Universal Mind Control』 Common

思い出すと、『Be』、『Finding Forever』とキャリアのハイライト的なアルバムが続いているCommon。HipHop界にてというジャンルを確立したとも言える見事な仕事っぷりでしたが、さて今作『Universal Mind Control』です。キモとなったのは、何と言っても今回のメインのプロデューサーがThe Neptunesである(&no Kanye produce曲)ということです。
振り返れば、今年のNepは吹っ切れた感がありましたね。マドンナ仕事での自由なポップスだったり、ソランジュ仕事でのトレンド乗っかりだったり、あるいはN.E.R.D.での真っ直ぐなパワーポップだったりと、全体的に肩の力が抜けた良い仕事が多かったと思いますが。もちろん絶対的な仕事量の減りっぷりは明らかだし、先鋭性が無くなったのも明白だから、どこか痛々しいのも事実なんだけど。なんか可哀想なんだよね、M.I.A.にディスられたり、John Legendの名曲"It's Over"にて全メロディーを作ったいうのにプロデューサーのクレジットを貰えなかったりと、阿藤快ばりに何だかなぁ。
そんなNepとCommonの組み合わせ、過去には4回ぐらいありますが、なかなかのケミストリーがある。奇天烈な作風が面倒くさかった『Electric Circus』にて、Nepお得意のメロウグルーヴ炸裂な"Come Close"、ラフで土臭いビートの上でCommonがぶちかます"I Got A Right Ta"と予想以上の結果を出したり、あるいはN.E.R.D."She Wants To Move (Native Tongue Remix)"にてNepのロックンロールhiphopトラックでスマートに振る舞ったり、あるいはT.I."Goodlife"ではNep製の焦燥トラックにCommonを呼ぶことで説得力を増させたり、ってな具合に相性は元々よい。

で、今作はどうだったか。さすがに昔のNep的なド派手ギラギラ感は無いが、相変わらずmusic master全開だ。実に刺激的で楽しい。
小難しいことは語らずストレートにラップするCommonに対し、カラフルなトラックをぶつけて来ました。Mr.DJも数曲にて的確なサポートをしてますが、アルバム全体を通しての統一感、まとまりがカンペキ。やはり、Snoop『Rhythm&Gangsta』やClipse『Hell Hath No Fury』でも証明されてたように、exectiveプロデューサーに名を連ねてた時のNepの目利きはホンモノなんです。
恐らく、これは外伝的なアルバムなんでしょうね(アウトロにお父さんの語りが無いところにも出ている)。Kanyeもそんな感じでしたが、思えばCommonはGetting Out Our Dreamsに入団して以来ずっとKanyeと同じ年に同じような時期にアルバムを出していますね。そんでいつも何かしらお互いに影響を及ぼし合っていますが、今回も偶々か、二人ともトレンディな作風に寄っているところが一緒です。
本当はこれ、夏に出るはずだったんだよね。元々のタイトルもInvincible Summerっていう(若干アホっぽいようで、実はIn the midst of winter I finally learned that there was in me an invincible summerという味わい深い名言から引用した)タイトルだったし。でもその後3、4回もpush backされて、12月9日発売に至ると。
これはやっぱり、あの日、11月4日、そして、あの選挙なんです。勝利を見届けてから、universalにmindがcontrolされたのを見届けてから、発表したかったのでしょう。<みんな、これから本当に幸せな時代が来るんだよ。あともうちょっとだよ>というまさにYes We Can曲"Changes"。いかにも「お利口さん」な喋り方の娘さん、Omoyeちゃんにポエトリーリーディングさせてて、とても感動的です。これからのアメリカ、これからの世界を担っていく世代の子供たち、その代表としてOmoyeちゃんが《変化とは》を詠みあげる。希望に満ちた言葉たちで詠みあげるんです。すごく、感動的です。
もちろん、CNNでwillが強調してたように、本当の闘いはこれから始まる。それは重々承知だ。でも、Sam Cookeが歌っていたa change is gonna come、《いつか、変化の時が来る》の「いつか」が、ほんのちょっぴりかもしれないけど、輪郭が見えてきたんです。ぼんやりと、ではあるんだけど、肉眼で捉えられそうなんです。
2Pacも同じタイトルの曲が出ていますね。Pacの"Changes"は「Although it seems heaven sent,we ain't ready to have a black president」(「皆、神様から平等に生を授かったというのに、オレらはまだ、黒人の大統領を目にしていない」)と嘆き、最後に「Some things will never change...」と呟く、そんな曲でした。Tupac Shakurはどんな想いで、天国から今のアメリカを見つめてるのでしょう。
僕は小渕晃さんの解説で初めて知ったんだけど、Commonは2004年、Jadakissの超名曲"Why"、そのリミックスにて、既にBarack Obamaの名前を出していたらしいね。思い入れも人一倍強いだろうし、誰よりもオバマ勝利を喜んでたでしょう。

感情が大きく沸き上がったとき、気持ちが高ぶったとき、人はどうするでしょう。身体が勝手に動くでしょ。僕はそれを、広義のダンスだと思うんです。
嬉しくて飛び跳ねる、嬉しくてガッツポーズをする、嬉しくて嬉し涙を流す。いずれも身体が勝手に動いてるんだから、ダンスだと思う。
だから、こういうアルバムなんです。喜びを素直に出した、そんなアルバム。
最初はダンスアルバムだと思ってました。でも、そのダンスを誘発したのは、かつてない程の喜びであり、その喜びを生んだのは、国や仲間に対するコンシャスな想い。やっぱり、外伝的なアルバムじゃなくて、これもCommonらしいコンシャスhiphopなんじゃないか!
とかゴチャゴチャ考えたりしつつ、最後はこんなセリフで締めたいと思います。

There is not a conscious hiphop, not a party hiphop.There is HIPHOP!There is not a gangsta hiphop,not a trap hiphop,not an old school hiphop,not a new school hiphop.There is HIPHOP!!

God bless you.