『Hidden Files』に向けて

Mobb Deepが精彩を欠いているというか、Havocのプロダクションが時と共に変わってきた、というのが実情なんでしょう。
2004年の『Amerikaz Nightmare』以降、音が精密になり過ぎたんだ。メジャーレーベルな分、おそらく録音の設備なんかもハイスペックになって、トラックも超クリアになっちゃったんです。
『Infamous』『Hell On Earth』といったクラシックスのトラックは、殺伐とした空気、おどろおどろしい雰囲気を演出するような、ザラッとしたモヤが存在していました。チープな録音というか、ローファイというか、そのおかげでMobb特有の裏路地感があったんです。
『AN』のタイトルトラックに顕著なんだけど、ドープで迫力はある割に、小ざっばりしてて普通な印象が残るのは、ハイファイゆえ。Mobbには似合わん。
時代が進みすぎたんだろう。洗練の波に呑み込まれたんです。
Havocも道をいろいろ模索しています。Diddy"The Future"のような従来型からJadakiss"Why"のような希望型、The Game"Don't Need Your Love"のようなメランコリック型、あるいは"Speakin So Freely"のようなソウルネタ型(後に相方Prodigyが[ソロ作『Return Of The Mac』にて、この路線をAlchemistと共に徹底してクラシックを産みました)。いろいろ引き出しを開けたんです。
(書いていて気付いたんですが、Dr.Dreもかつて、次なるプロダクションを編み出すにあたって悩んでいた時期がありまして、今回のHavocの件に似てますよね。結果的にDreは「ファンキーなネタ+ピーヒャラ鳴らすシンセ」から「マイナー調のシンプルでメロディアスなループ」へと移行し、あの大クラシック『2001』が産まれたわけです。)
模索の最中、Havocは2007年に『The Kush』を発表しました。ここでは従来型QBサウンドに囚われず、若干南寄りのドラマティックビートをより精巧に精密に構成し、実にシャープでダイナミックなプロダクションを実現させています。昔ながらの東好きには不満な内容かもしれないが、あの完成度の高さは称賛に値するし、ひとつの答えになりうることを示しましたね。
ただ、(収録時期は不明ながら)Havocは昨年Prodigyにここ数年で最も従来型な"I Want Out"を提供してたりと、まだまだ探求は終わっちゃいないのである。
2009年はEminem、Dr.Dre、50 Centの3本柱の新作に期待が集まっているが、その一方で一切の妥協無しに続けられているHavocの探求にも期待をしたいと思う。