No.16 『Attention Deficit』Wale

Waleと言えば、基本的には昨年のThe Rootsのオシャレ名曲"Rising Up"でのフレッシュなパフォーマンスから始まった人、という認識ですかね。実際は『100 Miles And Runnin'』あたりのミックステープで名前を浸透させてましたが、まぁ知らんわな。
"D.A.N.C.E.W.A.L.E."とかを聴いた印象としては、Lupe Fiascoっぽいかなぁ、でした。声質とかスタンスとかが近いかも、と思ったんです。
今回のアルバムを聴いて思ったのは、この人は割りと正統派なラッパーで、Lupeみたいなヲタでもないし声も普通で、かといってギャングスタでもディーラーでもない、しかしながらコンシャス系にくくるにはそういうトピックにはあまり触れてないという、なんとも言えないアイデンティティ不足である。
もちろんラップは上手い。"World Tour"での舌技はなかなかのものだし、"TV In The Radio"での複雑なスピットには唸らされる。しかし、強烈ではない。
厳しい意見を続けると、案外ゲスト頼みな側面もあるんだよね。"Chillin'"なんてLady GaGaを呼ぶために作ったような曲だし、"Contemplate"なんかもRihannaが参加してなきゃ何も意味も持たない楽曲になり得てたよ。"Mirrors"もBun B寄りだし、まるで呼びたいゲストを招くためにわざわざ自分に相応しくないタイプの曲もこなしたのかな、という気すらしてくる。
まぁ少なからずJayのディレクションがあったんだろうな。似合わない怪しげなベタNep"Let It Loose"なんかはJiggaの独断っぽいし。
近い人脈との曲にも当たり外れが大きかった。"90210"はドリーミーでOK、MarshaがMary J.風の包容力で魅せる"Diary"はまあまあ、"Shades"はChrisette Micheleを活かしきれなかった残念曲。

翻って、良かった曲もいくつか。
"Pretty Girls"はいいんじゃない。Gucci Maneのザラッとした存在感に屈することなくスマートにまとめてます。
"Beautiful Bliss"は感動的でよい。Melanie Fionaさんのエモーショナルなフック、J. Coleの鋭い斬り込みに、Waleの滑らかな語り。完成度が高い。
そして一番のハイライトは"Mama Told Me"に尽きるね。ソウルフルで壮大なハイライト曲です。なんだかSoundtrakkが作りそうな泣けるトラックの上でひたすらヒップホップに愛を語るWale渾身の一発だね。これは間違いなくクラシック。

結果的に、割りと良かったんだけど、超良くはない、なんとも言えない感じ。インパクト不足。
次があるなら、全体的なレベルを上げて、自分の方向性を見極め、アイデンティティを示してくれ。

しかし、今年もまともな新人がいないなぁ……