No.6 『Before I Self Destruct』50 Cent

男気というか、愚直なまでの一途さというか。
ようやくリリースされた『Before I Self Destruct』は、ひたすら50 Centのラップがド真ん中に据えられた、50らしいヒップホップ愛に溢れた一枚になっている。
前作に不当なまでの低い評価が下されたこともあって、今回はいつも以上にプレッシャーがあったはずだし、ハードルも決して低くなかったんですが、トレンドやホットゲストに逃げることなく、己のラップのみで勝負した、その潔さから評価したい。立派です。
今作は、非常にスルメですね。一聴の段階では全体的に地味な印象を受けたが、聴き込むうちにジワジワと味が出てきます。ソウルフルなプロダクションが多くを占めるおかげか、飽きることなく何回も聴けちゃいます。
全てが高品質なので全部解説していってもいいんですが、一曲一曲の文章が長くなりそうなので、かいつまんで。
冒頭の"The Invitation"の張りつめた緊張感がいいですね。ラフにかます50もいい。
"Then Days Went By"のソウルフルな感触、Prodigy Of Mobb Deep"Stuck On You"あたりに近いか。悪くないね。
"Death To My Enemies"はハイライト筆頭でしょうね。なんとなく"Deep Cover"を思い出させるDreの忍び系ドープビートが強力だし、50のフックも実に気が利いていて巧い。3rdヴァースでの畳み掛けるライミングも見事だし、ホントいいね。
"Psycho"は興味深い。普段はさほど力まずラップしてる50がいつも以上に肩に力入れてのパフォーマンス、いいですね。当然Emに負けたくないという気持ちの表れでしょうが、あの不穏さと危うさを漂わせるEmのヒステリックな声の存在感は半端ないんでね、喰われないようにするために必死こくのも無理ない。結果的にはナイスコンビネーションな曲になりました。基本的にこの2人のコンビ曲にハズレはない。
"Crime Wave"はFabolous"This Is Family"と同ネタになりますが、こっちのほうがテーマ的にトラックとフィットしてると思う。バンギンなビートにただ身を任せるだけでなく、緩急や抜き差しをつけた50のテクニックが出てて良い。
"Gangsta's Delight"は、50も手堅くまとめてて悪くないのだが、なんつってもHavocによるプロダクションが凄すぎる。重厚でかつ荘厳な作りは唯一無二のモノだね。お見事。
"I Got Swag"はバランスがいいね。程よくソウルフルネスが滲むトラックに、力の抜けた50のフロー、そして何気ないフックまで、トータルバランスがいい。さりげなくこのクオリティの曲が登場するところが、このアルバムのただならぬ質の高さを物語ってます。
"Baby By Me"もいい。自身の過去曲"I Get Money"の一節から再構築して別の曲に仕立て上げる感じは、R. Kellyの"Step In The Name Of Love (Remix)"と"Happy People"みたいなモンか。フックの歌詞はNe-Yoバージョンの方がいいが、声質の相性から言うとJovan Daisの方がよろしいかと。まあどちらも素晴らしいんですけど。切なさと焦燥感の出たPolow製のトラックも最高だし、50も雄臭さを出してていい(No Homo)。
"Do You Think About Me"はグルーヴとキラキラが溢れるトラックが圧倒的。鬼才Rockwilderさんによるものですが、彼と50が組むのは1stでのアップ"You Like My Style"以来、って懐かしいね。そんで、インパクトのあるサビを歌うのがGovernor Washingtonさん。古くはSantana"Since Supernatural"とかで歌ってて、有名なのはGrand Hustleに加入してからのT.I."Hello"とかだろうね。50とはインディー時代にG-Unit名義のmixtape『God's Plan』にて、Biggie"The World Is Filled…"のリメイク"The World"にて共演して以来かな。
"OK, You're Right"は今年のmixtape『War Angel LP』にも収録されていた曲ですね。直球すぎるDre節のトラックは普通ですが、「はいはい、そうですね。仰る通りです」的な呆れモードのフックがいい。
ラストの"Could've Been You"も凄いね。内容としては、わかりやすく言えばJustin Timberlake"Cry Me A River"的な後悔しろよソングなんですが、あんな感じにねちっこく行かず、スムースにムードいっぱいに仕立て上げたところから見事。50のスマートな振る舞いもさすがだし、Kellzの軽やかさもさすが。カッコいい曲ですよ。こんな大人なR. Kelly、アダルトKellzがヒップホップで登場するのはそれこそBiggie"Fuck You Tonight"以来かもしれんね。

こんな感じです。ホント、グッジョブ。よくやったと思います。
しかしながら、今作のプライオリティ上位に置かれていたセールスの方が付いてきてくれなかった。残念ながら言い訳はできない。
50がすべきなのは、ひたすらスタジオに入ること。頑張り続けるしかないんだよ。
とにかく頑張れ。ここを乗り越えた時、もっと大きくなれるだろうし、いい音楽が出来上がるはず。
だから、ホント頑張れ。頑張れ頑張れ頑張れ!