No.5 『Ghostdini: The Wizard Of Poetry In Emerald City』Ghostface Killah

Ghostface KillahがR&B色の濃いアルバムをやる」という情報を聞いたのは昨年だっただろうか。
しかし、ヒップホップファン誰もが思ったことだろう。なんて意味のないニュースなんだ、と。
今更そんなこと言われたって驚くことなど何もない。GFKは生粋のソウルオヤジで、必要とあらば歌うことも辞さないし、ソウル曲の上にそのまんまラップしたりすることもしばしば。そんなヤツがR&B色を濃くする言ったって、今までも充分濃かったでしょ、ということだ。
しかしまぁ、この人は最高にバカなんだよな。いつものように好き勝手な製作の結果、実に見事なアルバムが産まれたのです。
冒頭の"Not Your Average Girl"から面白い。久しぶりに名前を聞いたShareefaのパンチが利いた歌唱と、手加減抜きGFKラップ。この2つがエッジーなトラック上で火花を散らす、実にスリリングなオープニング。
続く"Do Over"もたまらない。イントロのアドリブからして最高すぎるRaheemが泣きの名唱で切実な想いを込めた、早くもハイライト曲です。
しかも続くのがまたもハイライト曲"Baby"。いかにもRaheemな優美すぎるピアノにきっちり乗せるGFKに違和感など皆無だし、AutoTuneも交えたRaheemのパフォーマンスに間違いなど欠片もない。
近頃無条件に批判されるロボ声であるが、このような使い方をしていれば文句など思いつきもしない。Raheemが気持ち良く伸ばした美声を処理してザラッとした心地よい聴こえ方になるわけです。
ブリッジにてRaheemが「And so you're havin' my baby/Stay forever my lady like Jodeci」っていう歌詞をサラッと歌ってますが、こういうところにもRaheemの持ち合わせる感覚、感性の鋭さが見える気がします。
"Lonely"もJack Knightが美しい歌声でGFKの演出する哀愁を揺るぎなくしている好曲。
"Stapleton Sex"は正直やりすぎだが、"Stay"はソウル早回し系で悪くない。
そして最大のハイライト"Paragraphes Of Love"の登場だ。ゴージャスなムードの中、ありったけのsweetnessをロマンチックに詰め込んだlove @ 1st sight系のバラードでして、John伝説の弟さんのVaughn Anthonyさんのジェントルな歌唱に酔わされるし、ヒロイン役でEstelleも華を添える、とことん気持ちいい曲です。フツーに良すぎるでしょ。こんな最高のスイートソウルを、ヒップホップのアルバムで聞けるなんて!
まだまだ続くハイライト。現実に目覚めたのか、浮気される男のストーリーテリング"Guest House"。間男の役を好演するFabolousのスマートさと怒り心頭のGFKのブチギレ具合に引き込まれる見事な1曲です。Rick Ross"Yacht Club"から普通に流用してるのはアレだが、JUSTICE Leagueによる壮大なスケールのトラックも盛り上げてる。
"Let's Stop Playin'"は何もない。つまらん。"Forever"はGFKの十八番な感じで手堅い。"I'll Be That"は♀ボーカルを活かすキュート系だが、こうなると必然的にラップがヘボくなるわけで同意しかねる。
ただ、続く"Goner"も最高。Lloydのサビがキャッチーで楽しいんです。みんなで歌いたくなる感じです。
残り2曲はボーナス扱い。
まんま悪しきRon Browz節"She's A Killah"はアルバムの雰囲気から相当浮いてるんですが、ヴァースを重ねるにつれどんどん加速していくGFKのパフォーマンスが見事なので充分に価値がある。Ron Browz関連曲の名前を次々に引用していく部分とか流石。
大ラスは、まぁお馴染みの"Back Like That (Remix)"……何でだよとツッコミたくなるが、空気は壊さんし、相変わらず名曲だ。

こんな感じです。個人的に大満足。いいじゃんね、こういうの大好きだ。歌が素晴らしいのはもちろん、ラップも当たり前のようにしっかりしているから曲として完成度は必然的に高まってくるわけです。
Pliesあたりからの影響といえるかもしれない作風だが、自分のやりたいことを素直にアウトプットしてくるその純粋な情熱がなんといっても最高。
圧倒的親しみやすさと、それなりの深み。これを前にしてどうイチャモンをつけるというのか。
コカインラップをやったと思えば、完全なるソウルアルバムを作ってくる天才、GFK……こういうオッサンがいるからヒップホップは楽しいんだよね。