No.4 『Til The Casket Drops』Clipse

基本的に大好きなアーティストなんで、必然的に評価も高くなるんですが、それを差し置いても良好な出来でしょう。
リリースペースが上がらないのが残念すぎるんだが、待った甲斐がありましたね。
ファーストの華に、セカンドのラップの存在感を合わせたような、2つの過去作のいいトコどりです。理想的な進化形と言えるでしょう。
過去作との大きな違いは、Nep以外のプロデューサーも参加してることです。Sean Cane & LVにしてもDJ Khalilにしても、Clipseのイメージを崩すことなく、あり得る範囲でアルバムの幅を広げている。いいですね。曲を提供した側も、曲を選んだ側も、間違ってません。
多少の懸念があったのが、Nepビートのクオリティ。不調ではないけど、波が激しい昨今のNepなだけに一抹の不安は拭えない感じはありました。
でも結果的に、心配は杞憂に終わりました。つまらないトラックは多分なかったはず。
それに、Clipseがラップするんですから問題など何もありません。どんな曲調が来ようが、二人は変わらずタイトで楽しいワードプレイを披露してくれます。最悪二人がどうにでも救ってくれるので、心配など必要なかったよね、よく考えてみれば。

オープニングの"Freedom"から苦み走ったギターが泣いてて最高。今までにない感じだ。幅が広がっていきそう。
"Popular Demand (Popeyes)"も今までに無い曲調。物悲しいピアノループはロシアっぽい?さっくりした言葉遊びを届けるはClipseとKillaでございます。確かに相性よさそうだよな。Camには客演を増やしてほしいね。
ここで一発"Kinda Like A Big Deal"。わりと早い段階の先行カットでしたね。いろいろ不穏な音が飛び交うトラックからして見事だが、YeがキッチリぶっとばしたりPushaがラフにキメたりMaliceが安定してたり、良すぎでしょ。
"Showing Off"はいかにもなミニマルループにて二人は鉄板だし、Yo Gottiのサグい語りが変化をつけてるし、冷静にまとめたPharrellのフックも利いている。
"I'm Good"が正式カットかな。スムースにメロウな展開を見せるNepビートもいいし、常時相槌を打つPharrellもキャッチーだ。こういうR&B寄りのトラックをストレートに打ち出すのはファーストでの"Gangsta Lean"以来かな。全然似合うからもっとやってほしいね。
"There Was A Murder"は冒頭に歌うKobeさんがけっこう持っていくがBメロもあるトラックがいい。
続く"Door Man"は重心低めのビートだが、二人のフロー、フックのチョイスは正解だね。ダラッと行ってて雰囲気出てます。
"Never Will It Stop"なんかはチャンチャンチャンチャン言ってるだけのトラックなんだが、Ab-Livaも交えての三人には何も問題ないね。"Ain't Cha"のように気持ちいいシンプルラップを披露してます。
次の"All Eyes On Me"はパーティーアッパーなんだけど、ドラムが印象的だし、二人も抜き気味のフローを選んだりと、単純に行かせないのが流石。Keriさんのストイックさにも惹かれます。
すると、続く"Counceling"がハイライト級かな。Nepの意地が炸裂するソウルフルフックとスケールの大きいトラックがたまらんわ。Nicole Hurstさんのボーカルも最高に雰囲気を演出していて素晴らしい。
そしたら"Champion"は逆にイマイチ風になりそうなところなんですが、主役の二人が救いまくってます。間違いないんだよね。
しかし、"Footsteps"は惜しいな。ラップは当然悪くないし、コクのある曲で良いんだけど、フックにちょっぴりAutoTune……もったいない。絶対必要なかったよ。もちろん悪い曲ではないんだが、惜しい気持ちになる。
大ラスは"Life Changes"。こういう曲をラストに持ってくるのも初めての試みか。抑え目の感動ムードもまた好し。

こんな感じ。Clipseなんだから最高に決まってるし、実際そうでした。好きなアーティストがいいアルバムを届けてくれたんだから、幸せだよ。

トレンドを追ったりしないし、媚も売らない。己のラップだけでここまで持ってきたんです。実力派とはこのことなり。
"I'm Good"のリミックスでのRick Rossを聴いてビックリしました。普段あんなにカッチリ行くBawseが、少し手こずったかのように、オフビート気味になってるんです。
いかに二人が変幻自在にビートを乗りこなしてきたかがわかります。Nepの提供するヘンテコで激ムズのトラックを涼しい顔で乗っかる二人は、実は相当に力があるんです。そしてそんなことを感じさせず軽やかなラップで魅せる二人の圧倒的凄み……天才だ。天才。
Lil Wayneがライバル視している、という事実の理由が浮かび上がってくるよ。単純にラップするという項目において、Clipse以上に優れたラッパーなんていないということ。

ヘビロテは止まりそうもないね。来年も思いっきりお世話になるアルバムだな。

でも、お願いだからリリースペースをもうちょい上げてくれ。頼む。