No.20 『C.A.S.H.(Cass Always Stays Hard)』Cassidy

前作から3年ぶり。Swizzから独立を果たし、いよいよ真価を問われるんですが。


どうですかね。なんか辛い一枚になってしまってるよ。

良かったのは"High Off Life"。訳分からんゴチャゴチャ具合が面白いかな。

あとの曲は……なんだかなぁ。

デビュー当初はもっと向こう見ずで怖いもの知らずなラップだったよね。活きがよくて思いっきり食らい付いていくような、とにかく若々しいラップだった。
ただまぁ、時が流れ、Cassも歳をとって大人になり、成熟していかないといけない段階になりまして。
前作で一部見せた内省曲、例えば"Leanin' On The Lord"みたいな重厚系であったり"Innocent"みたいなソウルフル系であったり、そういった曲の出来は良好だったんだけどね。
しかし、どうしても問題になるのが、Cassの声の若さ。
少年みたいな声で半生を振り返ったりされても、まったくクソガキが何いっちょまえに人生語ってんだよ感がどうしても出てしまうというか。大人っぽい曲が似合わないという、痛恨の声質なんです。
その反省からか、それともただ単に内省のネタがなかっただけなのか、そういう曲は今作には入っていない。
ただ、いろいろ手広くやった楽曲たちが、ことごとく中途半端な出来に終始していて、いただけない。
技術的な問題があるわけではない。ただのヒップホップファンになって見たいバトルを挙げていく冒頭曲"Face 2 Face"を聴くだけで、Cassの持ち合わせるポテンシャルは容易に窺い知れる。
だけども、何かしら何処かしら物足りなさを残す点があるんだ。
ちょびっと鼻歌まじりのフックだったり、重心低めの南っぽさだったり、あるいはAutoTuneだったり。トレンドを意識したのか知らんけど、どれも効果をなしていない。
たびたびやっていたギャルチューンの完成度も、今までで一番ダメだと思う。前作までに3つあったMashondaとの絡みは良かったのに、あのレベルには達せなかった。
こうなると、やっぱり期待されるのはCassの持ち味であるバトルラップ、なんだけど。
なんつーか、Cassも歳とって丸くなった、というか。
わりとSwizz風のトラックがあるのにも関わらず、Cass自身がガッツリ来ない。
そもそも、あんまりアッパーがない。速い曲がないから、まろやかな印象を受ける。そんで、それでは物足りない。
"Can I Talk To You"とか"You Already Know"とか今までラッパーとのコラボをしても喰われてなかったのに、今回は若干主役の座が揺らいでたりしてるし。
残ったのは、時々放たれるリリカルな楽曲たち。それなりに豊かなボキャブラリーと表現力でもって描かれる詞は決して悪くはなく、むしろなかなかの興味深い着眼点が良かったりするのだが、"Peace"にしても"Music In My Blood"にしても聴かせ方が巧くない。内容とトラックが合ってなかったり、起承転結が薄かったり。先述の"Face 2 Face"も聴かせ方という点では改善の余地を残しているよね。
元を正せば、いわゆるフリースタイルがメインのMCであり、本当の意味でのリリシストではない、という事実。
言葉遊びのレベルは一定のところにあるんだけど、CommonやTalib Kweliのコンシャスなリリシズムには行けないし、かといってNasの哲学的なリリシズムも無理だし、DMXのスピリチュアルなリリシズム、かつてのEminemの退廃的なリリシズムも無理だよね。GFKみたいなストーリーテリングも無さそうだし。
声のハンデもデカイ。あの幼い声じゃあ芸風も限られてくる。
J.ColeとかJay Electronicaとか有望な新人のデビューは来年以降も続くわけで、Cassもウカウカしていられない。

個人的に、Cassが狙うべき路線は「ヒップホップ愛」だと思う。
"Music In My Blood"や"Face 2 Face"あたりは惜しかったけどリリックは良かったし、前作の"Damn I Miss The Game"なんかはCassの代表曲として挙げてもいいクオリティだったからさ。きっと熱心なヒップホップファンとしての視点で曲を作って行けば、自ずと質は上がっていく気がする。
それこそGameみたいなやり方だよね。大好きなラッパーの名前を並べたり大好きな時代を懐かしんだりする、あのやり方。

しかしながら、その二人が共演した楽曲"All Day All Night"のオーラの無さが、今の二人の立ち位置を示しているような気がして、とっても寂しい。
GameもCassもガツガツ感を無くしてしまったからな。勢いとか迫力とか、そういうのが無い。若さを無くしたのか。
『R.E.D. Album』もリリースされる気配が微塵もないし、相変わらずシーンは厳しいわけだ。
そんなキツイ業界をCassとCarmeloは溺れずに航海できるんでしょうか。

LeBronも救いようがない甘ちゃんだけど、それに輪をかけてCarmeloは能天気だからなぁ。ただの田舎のデカイ兄ちゃんでしかないからね。ビジネスセンスなんて1ミリも持ち合わせてないに決まってる。

いろいろキツいだろうがCass頑張れ〜!
自分で道を切り開いていけよ。困ったらまた新しい人格でも産み出せばいいし。
頑張れ。