No.19 『The Appeal:Georgia's Most Wanted』Gucci Mane

Gucci Maneの新作。ムショから出てきたものの、一時期の不気味な存在感はやや薄れてきたような気がするのはオレだけなのでしょうか。何気に客演仕事は豊富でLudaやBig Boi、RossにBun Bのアルバムにて登場してるんで勢いはあるように見えるけど、今作に向けてのbuzzとか全く聞かないし、ぶっちゃけ機を逸した感はある。前作から9ヶ月くらいで次の弾を放ったのも、そういう焦りとか、仕切り直し狙いの結果だと思う。
数年来続いていたtrapブームもいい加減頭打ちになり、次なるステップを期待したくなるところ。二大trapスターのうち、Jeezyの新作が延期する中、とりあえず先に出たGucciのアルバムにてtrapの未来を占おうかな、とか思ったけど。
単純にダメだな。予想通りスッカスカ。
常々僕が言っている通り、Drumma Boyはウンコプロデューサーで本物のtrapビートを作ることなどできないんだってこと。ヒップホップライターの升本徹氏と同じで、人の模倣をしていても本物の優れた物を作り出すことできないんです。そんなヤツにトラックを提供してもらったところで底が知れている。うるさく鳴らしていればtrapっていうわけじゃねぇんだよ。

Trapプロデューサーで言えば、Shawty Reddが一番だと思う。エッジがあるし、エグくてインパクトがある。中毒性も抜群だし、レベルが一番高いんじゃないか。
二番はMidnight Blackか。SRほど強烈ではないんだけど、鋭いし、ハードさとメロディアスな感触を同居させる技とかは独創的だと思う。
Don CannonとかDJ Toompあたりは単純なtrapプロデューサーの枠に入らないかもしれないけど、やらせれば超一級のtrapビートを作る人たちである。前者はスケールの大きいバンガーを編み出すし、後者は奥行きがあって深みのあるトラックを作り出すよね。どちらも本当にソウルフルだし。

……とか余談ですかね。肝心のGucciについて触れていきましょう。
やっぱり序盤のtrap曲たちの捻りの無さには当然腹が立つ。ダラけたフロウは持ち味だろうから妥協するとして、トラック自体もえらく雑で大雑把なのがダメダメ。上述のSR、MB、DC、Toompあたりとは比べ物にならないくらい完成度が低くて、呆れてしまう。
だって途中挿入されるNep曲とSwizz曲の作り込まれた出来を聴いて、なんか安心したもんね。
特にNepプロデュースの"Haterade"はPharrell的にはアベレージぐらいの作品かもしれないんだけど、やっぱり他を圧倒的に引き離すクオリティがあるのは、疑いようのない事実なんだよね。メロウなグルーヴが揺らめく心地はネクストレベルだし、構成とか演者の引き出されたパフォーマンスとか総合的にもダントツだしさ。そりゃ南部の有象無象Pと比べるまでもなく、The Neptunesはシーンを代表するプロデューサーではあるんだけどね、ただ今作における製作曲の飛び抜け具合は改めて衝撃的ではあった。

そうなってくると、案外Jay-ZのBlueprint 3が本当の意味でヒップホップゲームの青写真になっているのかもしれない。あのアルバムにて一番感じさせられたのは、圧倒的なまでにクリアで綺麗だった音質である。トラックやラップとかに飛び抜けたモノは無かったけど、あの鮮やかにシャープでクリアな録音を鳴らしたアルバムは、何となく名盤なんだなと思わせるのに十分な存在感があったんだけど。
丁度Rossのアルバムの音質のチープさに不満を持っていたんだよ。なんかしょぼいな、と。
これからの時代は曲の丁寧な完成度と音質だな。そんな気がしてきたぞ。


あんまり関係ない話ばっかだな。それだけこのアルバムに見るべきポイントは少なかったということさ。
先述の"Haterade"と、Swizzによる"It's Alive"だけが大事です。この2つには価値がある。
Wyclefとの"ODog"は苦み走ったフックもいいし、トラックも十分な力作と言える。
あとは"Remember When"が惜しかったかな。単にGucciには似合わないのか。
しかしまぁ、Ray Jというのは依然として興味深い存在だよね。多彩だし多才だし、もっともっと活躍してほしいと思う。