Prodigy & Alchemist "Give 'Em Hell"

ProdigyとAlchemistのコンビと言えば、もちろんあの名曲"Keep It Thoro"もありますが、アルバム単位でいえばやはり2000年代のニューヨークを代表する大傑作『Return Of The Mac』が思い出されますよ。あのスモーキーで肌寒くもタフで粋な名盤を産んだ二人が再びフルで手を組んだアルバムなんだから、外れるわけがありません。
そして、期待通りに見事なアルバムが発表されました。『Albert Einstein』。『Return〜』と比べるとニューヨークらしさは減り、ミニマル系とかの現行シーン寄りみたいなビートもありつつ、その中でむしろMobb Deep的な不穏トラックもあったりと、決して間違いを犯すことなく強力なプロダクションを実現できているのが素晴らしい。
一人のプロデューサーに丸々アルバム全体をお願いするとなるとどうしても途中で息切れが生じて、いくつか密度が薄くて集中が足りない曲が入らざるを得ない事態が生まれたりするんですが、前回と同じくこのアルバムにそういうタイプの捨て曲はありません。
Alchemistというプロデューサーは決して芸風が幅広いわけではなく、そのことからクライアントの数もめっちゃ多いということもないんですが、自分の出来ることはしっかりやってくれるし、自分のフィールドの中での安定感は抜群なんです。変に浮ついたりせずストイックだし、それでいて必要以上にアンダーグラウンドを気取らず、ヒップホップらしい華も備えたキレのあるトラックを用意できる人ですね。アルバムにこの人のトラックがあるとグッとヒップホップ的なキャッチーさが増すんですね。キャッチーさ、言うなればNo I.D.的なプロダクションですかね。あの人はもっとポップ寄りのキャッチーさでして、なんというか昔のニュースクールっぽいDe La SoulとかPharcydeみたいな華を持ち込んでくれる感じですが、Alchemistの持ち味は初期LL Cool Jのような本当にヒップホップの文脈におけるキャッチーさだと思う。まぁどうでもいい話ですが。
Prodigyも依然として健在。無駄にHavocと揉めたりもしましたが、この人たちはもともと良い意味でのフィクションギャングスタラップが展開できる人たちですから、歳を重ねても大いに期待したいところ。『Hell On Earth』のようなディープでドープなアルバムをまた出してほしいですね。
『Black Cocaine』もなかなか充実した内容のEPでしたが、早くフルアルバムもお願いしたいです。