Eminem 『Music to Be Murdered By』

非常にカッコイイ。すごいかっこよかった。
過去作では必ずおちゃらけるというか道化を演じる場面があったんですが、今回はほぼほぼ無し。
今まで以上に作品の指先まで神経が行き届いていて、美しさすら感じた。
ラッパーというよりかは、演出家、あるいは映画監督としての才が爆発している。
アルバム後半にちょっと息切れ気味なプロダクションもあることはあるが、おそらくサブスク時代においてはそこらへんも不問というか許されるレベルの話。
あとキャッチーさが少し欠ける気もするが、47歳のオッチャンラッパーが必ずしもキャッチーである必要はないわな。
トータルパッケージの完成度という点では、『The Eminem Show』に匹敵すると言っても過言ではない。素晴らしい。


Eminemの特長として、ラップの持って行き方の巧さですよね。これを喋ろうと思う。
ラップはAメロとかBメロとかないわけです当たり前ですが。
本当は昔はフックもなかった。フックというのはサビですね。昔は一通りお喋りを終えた後、休憩時間みたいなブレイクが入るだけで、サビなんてなかった。昔のヒップホップにはサビなんてなかったんだけど、商業化が進むにつれてサビは必須のものとなった。サビがないとCMソングに使えないし、リングトーンに使えないし、曲の掴みなんだよねある意味。
ヒップホップの曲にはサビの前後にラップがあるわけなんですが、Eminemのラップの作りの巧さとして、サビに入る直前まで盛り上げる巧さと、サビ終わりの2番のヴァースでの導入の巧さが光るんだよね。
さっきも言ったけどAメロBメロがないラップではあるんだけど、AメロからBメロへと加速させていく中でお膳立てをきっちり整えてから、一気にサビで絶頂を迎えるっていうのを、Eminemはラップでやっているんです。
無意識なのか考えてやっているのか、ヴァース始めはゆっくりと落ち着いた調子で始めて行って、ヴァース後半は少しづつギアを入れて行って、ちゃんとサビに入るまでにすごく高ぶらせてくれる。
特にサビ直前のラップは絶品で、サビと連動したラップを用意している。サビを自分でラップするにしろ、自分で歌うにしろ、あるいは他人に歌わせたりラップさせたりするにしろ、自分のヴァースと繋がりがあって、無理なく流れていけるよう作るここの部分の曲作りの巧さは、もっとみんなに取り上げてもらっていいと思うのよね。Eminemのラップの最後の方のフレーズと、サビの最初の方のフレーズの連動性がちゃんとあって、そこの繋がりの美しさが芸術性を高めている。これは昔からの特長。昔からできていた。
それでいて、サビが終わった後の2番の始めって、普通のアーティストだったらまぁまぁダレたりするじゃない。惰性というか、ちょっと緊張も解けて集中力がない瞬間になってしまったりする。
でもEminemは2番始めの掴みもしっかりやっている。まぁ厳密に言えば特別な何かをやってるわけじゃないのかもしれないが、掴めている。リスナーをサビの余韻にずっと浸らせるのではなく、すぐさま自分のラップ世界に引き戻せている。ここの巧さも感じるんだよね。
ただただラップするのではなく、AメロBメロ的な発想と、そこから逆算して緩急や強弱を盛り込ませているっていう、そういうプロダクションの匠がEminemにはある。
意識しているのか、あるいは無意識にそうなってしまうのかは不明だが、いずれにしろ素晴らしい。個人的にはKanye Westと並んで、ヒップホップ界を代表する芸術家と言いたくなります。


結局、(良い意味で)メインストリームで売れるラッパーというのは、たくさんの音楽を聴き込んでいるんだよね。ヒップホップだけじゃなくて普通のポップスもしっかり聴き込んでいて、そのポップミュージックの作法をヒップホップにいかに昇華させられるかみたいな所にかかってくるわけよ。
どうせ最近の味気ない若手ラッパーたちはヒップホップしか聴いてこなかったんだろうな。彼らの曲は音楽ではない。ただのお喋りだ。音楽的価値は皆無。
ヒップホップという音楽をやらないといけない。
音楽であれ!!!
www.youtube.com