No.9 『Pilot Talk』のIとII Curren$y

Pilot TalkのIとIIをリリースしたCurren$yさん。一年で二枚とはなかなかご立派な創造意欲だなぁ……と思いきや、さらにとどまること知らず来年も上半期だけでまた二枚リリースする予定だとか。
若者ならではの瞬発力なのかね。素晴らしい。
しかも内容的に充実しているから、立派な新人さんであります。
新人って書いたけど、Curren$yと言えば、Lil Wayne"Grown Man"で知られているように元はYoung Moneyに所属し下積みを重ねた人であり、それなりに長いキャリアなんだよね。まるでかつてのボスWeezyのように、ぽっと出ではなく、一定の苦労と共に歩まれてきたわけです。
Weezyとの共通点を強引に挙げれば、どちらもJay-Zを触媒にして大きく成長を遂げたと言えるでしょう。WayneさんがレコーディングスタイルとCarter姓を用いてのしあがっていったのに対し、Curren$yはバックの布陣を固めて上昇してますね。バックの布陣というのは敏腕Damon Dash、そして初期Jay-Zを支えた名プロデューサーSki Beatzのことです。
"Dead Presidents"や"Streets Is Talking"といったJiggaのキャリアを支えた名曲たちのプロデュースで知られるSkiもまた天才的なセンスを誇っているよね。地に足をつけながら同時にソウルフルなキャッチーさも備えるトラックメイキングに定評のある彼の手腕は、このCurren$yの二枚でもいかんなく発揮されています。
そんなSkiの起用を決めたとおぼしきDameの目利きは当然健在。キャラやフローに合わないトラックを選んだりせず、全体的なトーンの統一されたアルバムが出来上がっています。
キャラクターというのは、スモーキーなスモーカー。葉っぱ大好きKush最高キャラという、なんかここ最近シーンで静かなブームへと成長している分野であります。Kid CudiやWiz Khalifaあたりの。
そういうことで、アルバムにスモーキーな先輩方、Devin The DudeやSnoop Dogg、Raekwonを招集したCurren$yとDameは、ここでも筋が通っているわけです。
確かにあのふにゃけた語り口はDevin譲りな感じを受けますな。
その分、インパクトや内容に多少物足りなさを覚えかねないアルバムかも。一聴しただけだとぼんやりとしか印象が残らない。
ただ、Skiのトラックは特別だ。何回も繰り返し聴きたくなるループ。オススメは"Breakfast"と"A Gee"だね。あと"Roasted"と"Famous"もいいけどコレはMonsta Beatz製だったか。

何年後かに2010年を振り返った時、独特な存在感を放つこのアルバム、たぶん名前を挙げられるだろう。
『808s&Heartbreak』ほどエポックメイキングではない。でもトレンドセットは十分果たしうるかも。
Trapミュージックもすっかり下火になって、次はStonerラップかもね。
Dr.Dreの『Detox』もいよいよ現実味を帯びてきたし、そういう時代が来るのか。

それにしてもYoung Jeezyはどうするんだろうね。『TM103』のリリース目処が立たないのは、時代が移り変わり、trapミュージックがピークをとうに過ぎてしまったことに起因している。
かつてのtrapメイトであるT.I.もRick Rossも各々別の道を歩んでいる中、不器用なJeezyは次の一手が打てないでいる。
『Trap Or Die 2』は強力な一枚ではあったんだが、果たして来年にも通用する内容と言えるのか、甚だ不明だし。
Don Cannonも頑張らないとね。苦境を打ち破るくらい見事なトラックで再びシーンを席巻してほしいと思う。

関係ない話じゃねぇか。なんだコレ。