No.8 『Pink Friday』Nicki Minaj

「女性には、下手なことが3つある。車を運転すること、地図を読むこと、ラップすることだ」
のっけから失礼なことを書いて申し訳ないんだが、真実なんだから仕方がない。

Cash Moneyからデビューの女性ラッパーで、変顔が得意で、お尻が大きくて、自分のことharajuku barbieとか言ってるようなヤツがマトモなわけがない。飛び道具以外の何物でもないでしょ、って。
客演がアホみたいに増えていくんで否が応にも彼女を耳にする機会も多くなっていたんですが、"My Chick Bad"とか記憶に残らないし、"Bottums Up"も羽目外してただけだし、"Hatarade"も早口だっただけだし。"Bedrock"でも目立たなかったし。

一応buzzは充分だし注目されているみたいだから触れておくか、というレベルで聴いてみたんですが。

悪くはない。特別良くもないけど、印象はポジティブだ。
アルバム単位だと彼女のやりたいことが伝わってくる。客演だと短いしクリエイティブコントロールを持ってないために中途半端なところに終わっていたけど、自作では違うんだな。

面白いのは、Drakeよりもラップがしっかりしていること。アイツなんか目じゃないくらいメリハリついたラップをするから、それだけでも立派。
しかもNickiには、Rihannaのような可憐な歌声も備わっている。コレがあるだけで、かなり表現の幅が広がるはず。

冒頭のMannie Fresh風のドラムパターンには別の想いを抱いたけど、まぁそれは置いといて。

処女作ということで、渾身のアイデアがブチ込まれているんですが、大きく分けて2パターンの曲で構成されていると言えそうだ。
わりとソリッドに行くか、自然に可愛げを漂わすのか。
前者が基本的に多い。Emと十分に互角に渡り合う"Roman's Revenge"はフリーキーさを失うことなくハードに走れているし、スタジアムをロックする王者曲"Blazin'"も力強く演じきっている。ただ時折フロウに工夫を欠く曲があると、一本調子の退屈さが襲ってくる。Shondraeのやや本気仕事"Did It On 'Em"とか、Drakeを余裕で葬り去る"Moment 4 Life"あたりの曲は、ラップが単調になって間が持たない。それが実に惜しい。
と、こんだけだと、よくある残念アルバムで終わるんだけど。
このアルバムの最大の特徴は、所々で挿入されている「女の子な曲」である。これが、他のアルバムとの決定的な違いとしてこのアルバムを大きく特徴づけている。
最大のハイライトは"Fly"でしょうね。歌詞は強気そのものだと言うのに、神々しく羽ばたく天使のようにRihannaが可愛く、終盤に控えめに入るNickiの歌も可愛すぎて、なんだか彼女を思いっきり抱きしめたくなる。
カワイイ系には、ついつい甘い評価をつけちゃうよ。"Right Thru Me"の大らかなフックは気持ちいいし、Katy Perry"California Gurls"的なムードを演出したwillの手腕光る"Check It Out"とかピンク色で似合うし、あんまり感情移入出来なかったけど"Dear Old Nicki"はコンセプトがいかにも女の子っぽくて良いと思う。"Your Love"も演者のパフォーマンスは平凡だけど素敵なトラックだし。
そしてアルバムラストを飾る"Last Chance"。ツンツンしながらも嬉し涙をこらえてるような曲で、ゲストにNatasha Bedingfieldとかピッタリすぎる人選だし、Nickiの歌も健気で凄くいいなと思った。「ホント良かったね、Nicki」と心の底から言いたくなるような、ちょっと感動するラストでした。良かったです。



なんだかんだ言って、楽しめる。多少の好き嫌いはあるにしても、、これだけ一生懸命作り込まれたアルバムというのは好感が持てる。
燃え尽きずに2枚目以降にどう展開していくのかわかりませんが、わりとベストに近い形でのデビューアルバムと言えるでしょう。


色物に終わらず、ラップと歌の二刀流、強気と可愛さの二刀流、合計四刀流を上手く使いこなしたというのは、やっぱり新世代MCならではということなんだろうな。


彼女にしたいMCランキング、ぶっちぎりの1位まちがいなし。そんな感じのアルバムでしょうか。