No.5 『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』Kanye West

まず、三部作の明快さ、親しみやすさは減退したわな。無条件に溶け込むようなキャッチーさは、もうここにはない。芸術であるために敢えてハードルを設けたような印象を受けた。メロディーは綺麗なんだけど、それに付随する諸々が崇高な空気を張っている。
フルオーケストラを導入したセカンドも多少この手の緊張感を感じさせていたけど、あれは最終的にポップスだったからね。今作は安易にポップスと括れない。
前作『808s〜』の反動でバリバリなラップアルバムになると予想していた人もいたみたいだか、Kanyeは前作で得た手法も踏まえた上でさらなる表現を探している。「歌いまくったから次はラップばっかりやる」みたいな単純な展開になるわけないよ。声を加工したり歌ったりして最適解を模索している。ここにエポックメイキングたりうる物は無さげだが、そんなことはどうでもいい。
むしろ、KanyeがKid Cudiに対して抱く憧れ、ライバル心みたいなのが出ていると思った。
ああいう風に本当の意味でフリーで自在なスタイルを自分なりにモノにしたいんだろうな。
精神の世界を彷徨うやり方も今作で結構真似している気がする。救いようのない自我と向かい合うなんて、あんまり過去作ではなかったからね。
Kanyeは具体的で現実的なテーマについてブラックに語るのが主流だったけど、前作でも多少ロック的手法で心象風景を描き出していた。今回はそれを応用したというか、ヒップホップのフォーマットに落とし込んだというか、なんだろうな。
マッチョじゃないラッパーはある程度の抽象性をリリックに組み込めたら楽だからね。ネタ切れに陥らずに済むという点で。
個人的には、歌詞に魅力を感じたりはしなかった。昔みたいに笑いを歌詞でとることは、今回は無かった。
あっ、でも"Power"は歌詞も含め最高に好きです。王者たる所以を誇示したスーパーヒーローのテーマでありながら、「Now this would be a beautiful death」という衝撃的なクライマックス、そこへ寄り添うDweleの美しく儚く揺れるヴォーカル、そして不敵に発せられる「You got the power to let power go?」……凄い。こんなにもエネルギーに溢れているんだから。またもJohn Mayerの名前を出して恐縮だが、"Bigger Than My Body"を初めて聴いた時と同じ鳥肌を感じた。
さて、今回は超好きなアルバム曲がない気がする。
ファーストは"Last Call"、セカンドは"Celebration"、サードは(後にカットされたが)"Flashing Lights"、フォースは"Paranoid"が好きでね。今作にはそれに該当する曲がない。
強いて挙げれば"All Of The Lights"かな。でも"Flashing Lights"とか"Paranoid"とかと同じレベルに好きという感じもないな。
みんな好きなのは"Devil In A New Dress"みたいだね。Binkさんも息の長い活躍ですよ。個人的にはベタすぎる気がしたけど、凄く綺麗な曲だよなぁ。というか、どっかで誰かが既にこのネタ使ってた気がする。思い出せなくてかなり辛い……Rossのヴァースも素晴らしかった。彼には夕暮れ系のトラックが似合う。
"Hell Of A Life"と"Blame Game"は単純に物足りなかった。
"Monster"や"So Appalled"あたりも若干工夫が足りない気もする。

まぁ、聴き始めてから数日しか経ってないんで、消化しきれてないのが現実です。

文句も書きましたが、なんだかんだ楽しませてもらってるし、リピートは止まらないし。

結局のところ、最高の音楽ってことなんだろうな。

ホント、お前のファンで良かったよ。

Feels good to be home baby!