No.2 『Sir Lucious Left Foot:The Son Of Chico Dusty』Big Boi

たびたびの延期もありつつ、やっと出ましたBig Boiのソロ作。
名義こそOutkastだったが実質ソロな『Speakerboxxx』が2003年にあったわけで、今作もまあその延長にある感じになるだろう、という予想が立つのは自然なところではあるが。
どうでしょう。

うん。基本的にいいアルバムだったね。粒揃いで楽しめました。
『Speakerboxxx』で見られた土臭さとか軽やかなファンクネスではなく、より正統派な、言っちゃえばDef Jam的なラップスター楽曲たちをストイックなラップで料理した感じでしょうか。

お気に入りの曲をダラダラ羅列していくと……
重心低めな女性讃歌"Tangerine"のクールネスに痺れます。T.I.の本気のパフォーマンスも完璧。
美人さんJanelle Monaeによる母性溢れる歌唱に包まれる"Be Still"には凄く癒されます。
Just Blaze的なプロダクション(Beanie Sigel"Mom Praying"似)が哀愁を演出する"Shine Blockas"あたりはモロDef Jamな手触り。最高。
"Daddy Fat Sax"や"Shutterbug"の勇壮な突っ走りもDef Jamっぽい。飾らず真っ直ぐスピットするBig Boiがハードで見事。
サッカー関連でよく聴くオペラをサンプリングしたtrap"General Patton"も強力なバンガーだね。
Lil Jonがシャープでスマートなプロダクションを披露した"Hustle Blood"も良い曲だ。Jamie Foxxの活かし方も素晴らしいし、レベル高いね。



充実。色んな曲があって、楽しい。昨年のJadakiss『The Last Kiss』をもっとカラフルに親しみやすくした印象。シーン屈指の実力派の放った力作であります。

残念だったのは、2点。
ひとつは、あまりにも典型的なトラックスが集ったおかげで、Big Boiらしさみたいなのは少しぐらいしか残さなかった点。ならではの渋み苦みを漂わせた"Turns Me On"とジワジワ攻める"Back Up Plan"ぐらいか。あとの曲は悪く言えば、他のラッパーがやってもおかしくない曲ばかり。Big Boiじゃなくても成り立つ曲という感じ。アイデンティティを発露しきれてないというか、なんつーか。
もう一点。Outkastの二人にはやっぱりジャンルの壁をブッ飛ばすキャッチーさを求めたくなるんだけど、今作にはそれを満たす楽曲は見当たらなかったな。"The Way You Move"や"Morris Brown"級の一発が欲しかった。万人が大好きになるような曲ですよね。彼なら作れるはずなんで、残念。
ええ、だから『Speakerboxxx』のようなクラシックとまでは行かないよね。わがままだろうけど、若干の不足があったと思う。

まあ、でも硬いこと言わなければ充分に力作です。何回も飽きずに聴けそうな、いい感じの一枚になってます。


最後にもうちょい。Andre曲をオミットしたのは、やっぱり残念。
サンプリングのクリアランス問題か、レーベル移籍に伴うゴチャゴチャか、あるいはBig Boiの意地かは知りませんが、せっかくなんで入れてほしかったね。作ったんなら入れろよ思う。
まあ、いいけどさ。