No.1 『B.o.B Presents:The Adventures Of Bobby Ray』B.o.B

こまけぇこたぁいいんだよ。
本当に楽しくて鮮やかなデビュー作だと思います。
単純に全曲キャッチーで非常に親しみやすく、何回聴いても飽きないような、もうまさにミラクルなアルバムでございます。

こういう時に比べられる定番としてOutkastのアレがありますが。
良くも悪くも芸術家肌のOutkastと違って、B.o.Bは普通なんだよね。才能溢れる、普通の人。格式張らずに素直に表現する人。
肩肘張らないし、自ら無駄に雁字絡めに陥ることもない。やりたいようにやるし、好きな音楽をのんびり作ることができる。
4月29日の記事にも書いたんだけど、「身体が勝手に歌い出すから歌うし、身体が勝手にラップするからラップしてる」みたいな極めて自然にスタイルを選んでいる。流れに身を委ねているような感じかな。
歌うし、トラックも普通にポップスだ。でもさ、別にいいじゃんね。何やってもいいんだよ。だって、ヒップホップってそういうモンだったじゃんか。

いつからだろうか、米ヒップホップに蔓延るマッチョイズム、ギャングスタ崇拝が、ヒップホップの自由な可能性を奪っていて。
マッチョさに欠けるヒップホップなど認められずにいた時代が長々と続いて。
N.W.A.以来という定説通りか、あるいはBDP"My 9mm Goes Bang"に起因するのか、よくわからんけど。
Kanyeは流れを変えようと粘るものの多少のマッチョさを組み込まざるを得なかった。ニュースクール的側面を備えながらも、シーン従来のハードコア思想と半々であり、異物として捉えられることは少なかった。
わりと受け入れられたLupeにしてもラップのタイトさだけが評価されたきらいがあった。サブジェクトは超がつくニュースクール調だというのに、フロウ巧みなラッパーみたいな扱いに終始。ちょっぴりキワモノの位置にいつつも、そのラップの巧さにばかりスポットライトが集まり、その音楽性がシーンのスタンダードになることはなかった。
やはり、業界のフォーマットをぶち破ることは不可能だったということなのか。

そんな中、全てをぶち破るきっかけになったのが、やっぱりKanyeだったという。
「既存の発想をなぞらうだけの伝統をぶち壊し、ヒップホップをよりピュアに、元来の自由さを取り戻す」。そんな意図があったのかどうかは不明だ。ただ、『808s&Heartbreak』の10曲にはそのきっかけとなるだけのポテンシャルとインパクトがあったのは間違いない。

単純な話、ラップして歌う人が増えた。今まではラッパーが歌うと変な目で見られたのに、最近は両方自分でやる人が急増して。
ボーカルスタイルに限った話ではない。今まではタブーなほどに嫌われていたサブジェクトも、好き勝手に語られていく。
さらに言えば、歌やラップが多少ヘタでも構わない、みたいなムードが産まれたのも見逃せない。
知らず知らずのうちに作り上げられていたハードルが撤廃され、もっとおおらかなシーンへと成長したということか。
インターネットの活用法の劇的進化がなされた時代も味方したんだろう。いろんな人がヒップホップに手を出すような、80年代以来の展開が繰り広げられようとしている。

Drakeはマッチョ寄りに行きそうだけど、Asher Rothみたいな人がすんなり出てきたし、Kid Cudiみたいな独創的解釈が生まれたりしてるし、B.o.Bが好き勝手に暴れまくっている。これからどんどんフレキシブルなアーティストだらけになるだろう。今はその段階。

どうでもいいこと書きすぎたな。とにかくB.o.B聴け。聴いたら絶対後悔させない。
わたくしの母親も気に入ってるぐらいなんだ。本当にハードル低いし、誰でも楽しめる一枚なんです。
無難に逃げた『Thank Me Later』とは違う。シーンの空気を決定付けた、歴史的一枚にして、面白く楽しい名盤であります。
今やシーン屈指の重要人物であるBruno Mars、さらに一段上の大復活を遂げたEminemとそれを強力にサポートしたAlex Da Kid、不気味に確かな才覚を見せつけたJanell Monaeなど、未来が見えているかのように2010年を象徴することになるメンツをゲストを呼んでいたこの作品は、そんな点においてもまさに今年を代表するアルバムなわけです。
いやいや、ゲストがどうとか関係なく、ひたすらに主役が素晴らしいんだよ。B.o.Bは本物のアーティスト。真の表現者。何も恐れてなどいない勇気と、鮮やかで人間臭さに溢れた創造性。彼は本当に衝撃的な存在だ。
『B.o.B Presents:The Adventures Of Bobby Ray』、今年ナンバーワンの一撃となりました。