国内盤『Tha Carter 3』発売記念 Part 3

05年、『Tha Carter 2』はdouble platinumを達成し商業的にも大成功したLil Wayne。
次のソロ作は08年の『Tha Carter 3』なんですが、今年超ヒットを記録しているこのアルバムが出るまでの3年間、彼は一体何をやっていたのか、そしてなんでCD不遇の時代に初動でミリオンを突破するようなアホ売れが『Tha Carter 3』にて実現したのか。
結論から言えば、3年間のあいだに世に出たmixtapeと客演、さらにBirdmanとのタッグアルバム『Like Father,Like Son』によって評価がどんどん上がっていき、相当な期待感を持たれることになった『Tha Carter 3』、そのプレッシャーゆえにpush backも多かったんですが、最終的に完成した全世界待望のLil Wayne's 6th Albumは最高に楽しい仕上がりになり驚異的なセールスを記録することになるのです。
客演はいくつあったんですかね。一時期のJayやLudacrisなみに毎月毎週何かしらの新曲にfeatureされているようなそんな状態でして、パッと頭に浮かんだ印象的なモノを挙げるとすれば、hip hopだとFat Joe"Make It Rain"やJay-Z"Hello Brooklyn 2.O"、R&BだとBobby Valentino"Tell Me Remix"やLloyd"You"ですかね。"Make It Rain"なんてサビをrapしてるだけなんですけど完全にLil Wayneの曲になってしまってるし、"Hello Brooklyn 2.O"ではずっと酔いどれの歌いっぷりでヘニャヘニャにやってるんですが"Renegade"いらいにJayの存在を抹殺しちゃうくらいだし、存在感がパないんです。やっぱり強烈にオリジナルだからなぁ..(ちなみに後者は"Best Rapper Alive"でおなじみのBigg Dプロデュースでしたから、土俵的にもWeezy寄りだったことは考慮に入れるべき)。で、R&Bモノ"Tell Me Remix"と"You"。あの声質じゃあlove songムリでしょと思いそうですが、そこは情感たっぷりにrapしてみせる懐の深さがWeezyにはあるんです。前者には「kick it like Judo」という我が国技の柔道を履
き違えた最悪のlineが登場したり、後者には途中Jay-Z"Song Cry"を逆さにしただけのlineがあったりと、こういう類いの仕事は片手間にやってるだけなのかもしれないけど、片手間にrapができるのはfreestyle力がある証拠だし、とても実の高い片手間だと思う。
Mixtapeも重要ですね。50 Centによってその存在意義が大きくなったmixtape(具体的に言えば、アルバムが出来るまでのつなぎとして、あるいはアルバム発売直前に出して熱を作っておく役割が期待できるし、beefが起きたときに公式アルバムを出したりしてるとタイムラグが出来て興ざめなところをmixtapeなら間髪入れずに返答曲を世に出せるなど、その手軽さが重宝されるようになったんです。かつてPuff Daddyが編み出した「デビュー前の客演による周到な売名」「コアとマス両方を意識したアルバム構成」「Remixという名で準新曲を作り出すSingle戦略」といった手法と並ぶ重要な発明だったと言えるかもしれない)。これが正規のモノから超胡散臭いモノまで膨大な数が世の中に出回っているんですが、重要なのは2種類。『Dedication』の1と2、そして『The Drought Is Over』1〜5です。
『Dedication』というのはmixtape業界のドンであるDJ DramaによるGangsta Grillzというブランドのmixtapeシリーズで..とかまぁそんなことはどうでもよくて、聴いてみると有名なオケの上でWeezyが自在に泳いでいます。人の曲の上でrapするということは、サビとか構成は考えなくてもよくて、大事になってくるのは如何に元のrapよりもhotなrapを乗せられるかなんです。つまりは、より明確な形でfreestyle力が問われるわけで、beatのdynamismを引き出すようにrapできるWeezyには最も得意な作業となるわけです。結果的に『Dedication』は1、2共に歴史に残るような傑作となり(2の方は2006年の各アウォードにてMixtape Of The Yearに輝きました)、Weezyの評価はうなぎ登りに上がっていくことになるのです。
繰り返すけど3年間ソロアルバムの公式リリースが無かったその間に評価が上がってるんですよ。(柳原可奈子風に)スゴくないですか?
『The Drought Is Over』というのはいわくつきのmixtapeでして、1こそ『Da Drought』という純粋なmixtapeシリーズ(紛らわしいね)の3に収められている曲を選抜しただけのものだったんですが(Gnarls Barkley"Crazy"を替え歌してふざけたり、Ciara"Promise"を聴いて膨らんだエロい妄想をrapしてみたり、そのくだらなさもまさにmixtapeです)、『The Drought Is Over』の2から一変して、なんと『Tha Carter 3』に収録するために録った曲たちをleakするような形で次々にブチ込むという大暴挙なexclusiveモノになったのです。問題ありすぎな行為(DJ Empireという製作者は訴えられたはず)ですが、リスナーには魅力的な楽曲たちだし、しかも客演曲も収録してあるという便利さもたまらないんですよ。
結局は"Comfortable"と"A Milli"を除く全ての楽曲は『Tha Carter 3』に収録されませんでした("Kush"や"Talkin' About It"は『The Leak』という形で準公式にリリース)が、楽曲たちの質は高くて、本気で収録するつもりだったのかなと思います。聴いていてなかなか飽きないmixtapeでした。
そんで、あとは番外編としてBirdman社長とのオフィシャルなタッグ盤『Like Father,Like Son』が06年末に出ています。あの社長の締まりのないダメrap付きということであまりまともに評価されてないこのアルバムを詳しく見ていくと、音の特徴としては『Tha Carter 2』でのcolorful路線から変わって、9割方trapになっています。06年は4月あたりにT.I."What You Know"がヒットして、夏にはYung Jocが"It's Goin' Down"を、Rick Rossが"Hustlin'"と『Port Of Miami』を共にヒットさせるtrap2年目なんですが、シーンの流れもある程度考慮に入れた結果なのか、それとも単純に社長の趣味なのか。一部Weezy主導っぽいsoulful路線もありますが、"Stuntin' Like My Daddy"や"1st Key"など、基本trapばっかりです。そんな中でもWeezyの存在感はとても華やかなものになっています。余裕と貫禄に溢れてて、ホントまさにスーパースターです(ちょうどこの時期にやってたBET Awardsを僕はMTVで再放送っぽいのを見たんですが、あんまりliveがよろしくないRick Rossとは違って、"Stuntin' Like My Daddy"をやったLil Wayneのstoicでtightなマイク捌きは印象的でした)。このアルバム、曲1コ1コはよくできてますがアルバムトータルでは単調で飽きやすいモノになってます。まぁでもテンションは上がるけど。