国内盤『Tha Carter 3』発売記念 Part 2

で、翌05年。
Hip Hopの一番の出来事としては50 CentとThe Gameのbeefが挙がるんでしょうが、その一方でT.I.が年始の『Urban Legend』にてブレイクのきっかけを作り名曲"U Don't Know Me"を出し、夏場にはYoung JeezyがKanyeフィーバーのちょい前に『Let's Get It:Thug Motivation 101』にてデビューを果たすなど、まさにtrap元年とでも呼びたくなるような年でしたね。Weezyも時代性を捉えつつ、自分なりのアルバムを出します。それが、超デカイ曲が揃った名盤『Tha Carter 2』です。
このアルバムから、今まで彼のアルバムのbeatを全て担当(厳密に言えば9割8分くらいか)してきたCash Money Recordsのhouse producer、Mannie Fresh抜きになるんですけど、その結果外から色々なプロデューサー(T-MixやThe Runners、Cool&Dreなど)を迎えたこともあってか、Mannieオンリー時代よりもさらに多彩なbeatを手にすることになるのです。中心になっているのは"Fireman"や"Money On My Mind"あたりのtrap曲なんですけど、その一方で"Mo Fire"のようなreggae曲もあれば、"Lock&Load"のようなhorror曲、"Get Over"のような何となく時代劇っぽいjapanese G-Die劇曲、"Weezy Baby"のようなhalloween曲、"Grown Man"のような爽やかbreezy曲、"Reciept"のようなネタ感の強いsoulful曲もあります(このごった煮感もあって、『Tha Carter 2』はDipset色の強いアルバムと言われることがあります。たしかにHeatmakerzやDoe Boysあたりのプロデューサー陣が参加しているところなんかもそんな感じを強く印象づけさせますが、まぁDipsetというのはNew YorkのHarlem出身でありながら積極的に南部フレイヴァーを採り入れるhip hop crewなんでね、これに関してはニワトリと卵、カエルとおたまじゃくしでしょう)。
このアルバムが素晴らしいのは、ただでさえ粒揃いなのにその上さらにデカイ曲が存在しているところなんです。
まずは冒頭にチラっと触れた"Best Rapper Alive"。Iron Maiden使いということでこれはrockな曲なんですね。余裕でこんなタイトルをつけるあたりも凄いんですが、こんなtrackでも平然と乗りこなせるWeezyのflowも流石。Mannie時代に養われたbeat対応能力が活かされているのと同時に、ここでひとつ触れておきたいのが、Weezyは子供の頃けっこうNirvanaとか好きだったらしいということです。のちに彼はdrunkyなキャラとかファッションなんかでrockstar寄りのスタンスをとる(Shop Boyz"Party Like A Rockstar Remix"とかChamillionaire"Rock Star"に参加するくらい)ことになるんですが、そーゆーWayneとrockの関係性はNirvanaから産まれたものなのでしょうか。つまりはLil Wayneも押尾学先生と同様、Kurt Cobainの生まれ変わりの一人なんです。
続いて"Hustler Muzik"。これは苦々しさを迸しらせたtrackの上で哀愁たっぷりに日々の苦闘を歌った曲で、メロディー具合も合わせたらG-Unit曲とでも呼びたくなるようなそんな感じです。「オレは食っていくために頑張るんだよ。チャンスをモノにしてみせる。地に足をつけて、頭は天高く」というようなhookがとてもカッコよく、若干独り善がりな面こそあるものの、曲の本質を考えればまさにReasonable Doubt Shit...
とかゴチャゴチャ言わなくても、ひとたび聴けば一緒に歌いたくなるようなとてもキャッチーな歌になってます。
そして最後に紹介するのは"Shooter"です。この歌を聴いて僕は初めてLil Wayneという人は最強のrapperだと思えるようになったんですが、そのいきさつをちょっと聞いてください。
元々『Dedication』シリーズ(後述します)は聴いたことあったけれども別にそれも片手間でありまともに存在を認識したこともなかったのがLil Wayneなんですけど、きっかけは50 Centです。
2007年、個人的にはまぁまぁだったけど世間的には超けなされた『Curtis』の中にあった"Follow My Lead"、この曲にfeatureされているRobin Thickeのパフォーマンスがカンペキにツボだったんです。Biggie的moody trackの上でsmoothにエスコートするような甘い歌声の主がとても気になって、その後昔のbounceを読み返したら彼の2nd『The Evolution Of Robin Thicke』を発見、買ってみたんです。ファルセット、歌声、地声の3つをうまく使いこなしてsoulfulに歌うところが初期Justinっぽくて、さすがにNepが惚れるわけだとか思ってましたが、そんな中
たどりついたのが"Shooter"なんです。このアルバムにもバーター収録されていたわけなんですがか、この曲はホント二人のパフォーマンスが本当にスゴすぎるんです。
Robin Thickeという人は元々プロデューサーとして活躍していた人で言われてみりゃUsherのあの『Confessions』の中の"Can U Handle It"のプロデューサーだったよねというところでしたが、一応売れないシンガーでもあり、Thicke名義の『A Beautiful World』をBabyfaceのレーベルから出してます(なかなかよいアルバムだと思うよ)。その冒頭を飾るのが"Oh Shooter"。Funkyな歌が鍵盤によるpopでかつrockなtrackと合体したこの曲にrapを加えたのが"Shooter"ということになるわけです。そのrapが凄いんだよなぁ、ぴったしなんですあのpopなtrackの上で西部劇の主人公を熱演しているんです。とにかく凄まじく良くできた曲なんで、ホントまともに解説できてないですが、ぜひ何処かで聴いてみてください。スゴいですから。(ちなみに『The Evolution Of Robin Thicke』にはもう1曲Weezyとのjoint"All Night Long"というアッパー曲があって、これも二人の相性の良さが出た名演になってます)
結局のところ、このアルバムで一番大きかったのは、僕みたいに南部hip hopを好きではない人種でもこんなに語りたくなるぐらい中身の濃い曲たちと共に、Lil Wayneの名がhip hopのmain streamにて強く輝きはじめたことである。