No.14 『The Elephant In The Room』Fat Joe

巨体に違わず、やっぱり不器用なキャリアを送っているFat Joe
90年代はハードな作風で、あの雄臭い声と確かなラップを武器にトップまでもうちょいだったのに、舎弟のBig Punに抜かれたりして頂点に届かず、2000年代に入ってからはキャッチーな歌フックを備えた耳に優しい作風にチェンジし、"What's Luv""Crush Tonight"とまあまあシングルヒットを出すものの従来のファンからはあんなヤツもう終わりだ言われ、するとたまたま起死回生"Lean Back"(Terror Squad名義)という特別狙ってたわけじゃないハードバンガーがまさかのチャート首位を獲得、さらには50 Centとのbeef勃発というナイスなトピックも得て、勝負の一枚『All Or Nothing』を発表したんですが、結果はやっぱりnothing... キャッチーなリードシングル"Get It Poppin'"はそこそこヒットしたが、アルバム自体は大ゴケ、50"Piggy Bank"へのアンサーソングとなる"My FoFo"も素晴らしい出来にも関わらず、同時期に勃発したThe Gameと50のbeefに話題は全て持っていかれてしまう不運..

今回のアルバムを語る際には、ターニングポイントとなった前作『Me Myself&I』とDJ Khaledの存在に触れなきゃいけない。
一気に畳み掛けるチャンスを『All Or Nothing』で逃してしまったJoeyは、何のトピックや盛り上がりも無いまま、2006年末に『Me Myself&I』を発表。アルバム自体は黙殺、しかしここでも飛び出すシングルヒット!それがLil Wayneをフックに迎えた"Make It Rain"である。チャートではなく、リングトーンのダウンロードのほうで凄いことなったのです。リングトーン、つまり着メロや着うたで使われるサビの部分の人気があったということで、それはJoeyではなくWeezyのフックが人々に好かれたという他人のふんどし的な感じなんですが、なかなかにしぶといFat Joeである。
翌年の2007年、今度は自身のクルー、Terror SquadのDJであるKhaledがまさかのブレイク!(Joeは昔Punに抜かれて今度はKhaledに抜かれるって、仲間に抜かれて恥ずかしくないんかいな)謎に豪華なゲスト陣を得たコンピレーション的なアルバムがヒットし、FloridaにKhaledとTerror Squadありを強く印象づけました。
この2つで確信したのでしょう。Khaledをブレーンにし、Weezyの力をまた借りて、Floridaのカラーを押し出したアルバムを出せば成功するんじゃないか、と。

それで誕生したのが『The Elephant In The Room』。というわけですが... どうかね。
まず、何ですか意味不明なアルバムタイトルは!ゾウって、どっちか言うと穏やかで可愛いイメージがあるから、hiphopには合わん。
さらに、どアップジャケ... どんだけ大味やねん。
曲は悪くない。盟友Cool&Dre製作でFloridaの若頭Pliesの助力を得た"Ain't Sayin' Nothin'"、あるいはWeezyとの黄金コンビ再びの"The Crackhouse"、あるいはJ.Holidayの甘い歌をフィーチャーしBiggieばりに大人のmoody hiphopを展開した"I Won't Tell"。いずれも良いんだけど、主役のラップが弱い。存在感が無いんだよね。喰われたのか。こんなんだからWeezyの金魚の糞とか言われるんだぞ。
ハードな曲だと"300 Brolic"が良かったかな。でもコイツはトラックの圧力で誤魔化しただけ?
アルバムトータルにバランスが良く、穴の少ないモノと言えそう。でも、もっとやれる気がしてならないのだが。もっと迫力あるラップをしてくれ。