No.6 『Brass Knuckles』Nelly

かつてのアホ売れはどこへやら、今作はまさに大ゴケでした。初動で9万枚しか売れず、Nellyはもう過去の人という印象を人々に強く抱かせてしまいました。
だからといって、作品自体がダメとは限りません。実際、公平な耳で判断すれば、意外に粒揃いなアルバムであることがわかる。変な固定概念に囚われず、ちゃんと判断してあげたいね、そこんとこ。
よくある、ゲストが豪華なパターンのアルバムですか、その場合危惧されるのが主役の存在感。最近の話で言えば、Fabolous『From Nothin' To Somethin'』なんかは完全に主役埋没なアルバムとして挙がりますが、今作のNellyはどうだったのか。
うん、奮闘してると言えますね。冒頭のモロtrap"You Ain't Him"こそRick Rossに喰われてます(まあこういうビートは主戦場じゃないからね)が、あとはガッチリ。マイク離さず、スポットライト離さず、です。
光るのはフック作りの巧さですね。"Hold Up"とか"L.A."とか"Self Esteem"とか"Let It Go Lil Mama"とか"One And Only"とか"Chill"とか、どれもこれも非常にキャッチーで聴きやすい。これはNellyが老若男女問わず支持されていた最大の要因であり、まだヤツは持ち味を失っていません。
ゲスト選び、そしてその起用方もノーミスでパーフェクトです。一番わかりやすい例がUsherでしょう。
説明不要のスーパースターなUsherですが、意外や意外、hiphop寄りの楽曲で人気を博してきた彼なのにhiphopアーティストの楽曲参加は長いキャリアのわりに異様に少ない。しかも、数少ない彼の参加曲、当たり外れが実に極端なんです。例えば今年のT.I."My Life,Your Entertainment"なんかは完全に失敗パターンですよね、意味がないですから。Alicia Keys"If I Ain't Got You (Remix)"は楽曲元々の完成度が高すぎるのがマズイんですが、参加するからにはちゃんとやって欲しかったよね。Lil'Jon"Lovers&Friends"もあんまりだよね。Usherである必要がない。
こんな感じでダメな時は全くダメなんです。使う側にすれば、実に扱いづらくリスキーなゲストと言えるでしょう。
唯一、ゲストに迎えたUsherを活かした楽曲はP.Diddy"I Need A Girl (Part One)"だけでしょう。Mario Winans製の甘いメロディーをアイドル感全開で歌うUsherは最高でした。やっぱりデビュー時から彼のことを熟知しているPuffですから、いいプロデュースでした。
で、Nellyはどうだったのか。"Long Night"という曲ですが、Nellyのverse部分にも絡ませて歌を挿し込ませるやり方はどこか先の"I Need A Girl"っぽくもありつつ、サビにて始めは早口で語りつつ最後にあの美声で「ろんな〜い」と歌う、あの気持ちよさ!一気に持っていかれますね。Nellyも得意なメロディアススタイルで勝負してて心地よいし、結果この曲、最高やんか!!
Usher実弟J.Lackさんによる弟ならではの気の利いたプロデュースのおかげですが、Nellyも相手を立てつつ自分も活きる、その振る舞い方が見事。
あとは、"Lie""Who Fucks Wit Me"が良かったね。前者は柔らかな音色がスムースなトラックで仲間たちと遊ぶ楽しい曲で、後者はAvery Stormによる熱い歌をフィーチャーし情熱的なギターループの上でNellyもぶちかます、完成度の高い佳曲です。
ただ、残念な点を挙げりゃ、やっぱり決定的なキラーチューンがない。"Dilemma""My Place""Over And Over"とか"Hot In Herre"みたいにチャートを賑わせるような、一発でリスナーを惹き付けるような、そんな曲があれば、アルバムも成功したんだろうね。"Party People""Body On Me""Steppin' On My J'z"あたりがその役割を託されたんですが、期待に応えられず。いずれも悪くないし良曲だが、もうちょい。もうちょい突き抜けるクオリティが欲しかった...