Justin Bieberのニューアルバム『Purpose』

一応『Journals』というのもありましたが、まぁ実際のところは2012の『Believe』以来の復活を期す感じになると思います。
『Believe』は質も量も兼ね備えた刺激的な良いアルバムでした。鋭くもあり、優しくもあり、声変わりの影響など微塵も感じさせない、逞しくて充実の一枚。
その後いろいろあったんですけどね…
とりあえず帰ってきて良かった。



彼の在り方を考えた際、一番近いのがBritney Spearsだと思うんですね。もちろん規模とか格に大きな隔たりはありますが、取り巻く状況とかは似ている。
Britneyの『In The Zone』(2003)から『Blackout』(2007)に到るまでの流れ。


やっぱりポップ歌手、ポップスターというのはホームランバッターでなくてはならないと思うわけです。打率は多少低くてもいい、それよりもホームランを狙って行かなくてはならない。2割4分くらいでいいから、そのかわり38本ぐらいは打たないとね。
あるいは単純にストライカー。Pippo Inzaghiのようにさ、ロクに試合中絡まなくても勝負所で一発で結果を出すっていう、あんな感じ。
山�武司が昔3割打ったけどホームランが減って減俸された年がありましたよね、あれですよ。
Usherの『Here I Stand』っていうアルバムがありまして、僕はけっこう好きだったんですよね。歌い込んでいて良かったんですけど。ただ世間の評価はイマイチだったのは、やっぱり大きなヒット曲=ホームランが無かったから。次作『Raymond v. Raymond』はプロダクションのレベルこそ落ちたものの世間的には好意的に捉えられましたよね、あれって結局は"OMG"っていう曲のおかげでしかない。
3割10本塁打じゃダメなんだよね。普通の人はそれでいいんだけど、UsherとかJustin Bieberとかはそれじゃあダメ。なぜなら、彼らはポップスターであるから。


長くなりました。
話をBritneyに戻しましょう。
『In The Zone』も力強くて見事な傑作だったんですけど、その後たしか結婚からの離婚とか、坊主とか、なんかいろいろあったんですよね。もうかれこれ10数年前のことなのであんまり覚えてませんが。
いろいろ逆風ある中、復活へ向けてのアルバムが『Blackout』。
なかなか良いアルバムだったはず。クールでスタイリッシュな装い。
そして中ヒットとなった"Gimme More"。
ということで、それなりに結果は出している。
順番は忘れましたがMTVで復活のステージをやってイマイチだったとか、なかなか完調とまでは行きませんけど、ある程度形は作ったわけで、これがあったからこそ、翌年の"Womanizer"での復活1位があったと思う。



今回Justinに求められているのは、Billboardで3位ぐらいになるヒット曲と、けっこう出来のいいアルバム。
幸い"What Do You Mean?"は奪首を果たしましたね。やはり依然として注目度は高いみたいで、ポップスターとしての鮮度は失われてないようだ。
さてアルバムはどうか。


…これがね、単調なんだよね。
申し訳ないことにまだ9曲目までしか聴けてないんですよ。職場まで歩いて35分くらいなんで。全部聴いてないのに文章書くなよっていう、それはもうごもっともなんですが。
なんかね、心躍る瞬間がない。
ポップスの良さっていうのは、親しみやすさであったり、心にすぅーっと溶け込んで行く感じであったりすると思ってるんですけど、一聴して良いなぁと思う曲は今のところないし、またすぐ聴きたいなぁと思った曲も今のところない。
じゃあせめてアーティスティックに振れていればと思うんだけど、これも正直凡庸である。
プロダクションの大まかなエッセンスとしては、やっぱりDrakeですよね。特に『Take Care』以降の完成されたDrake & Noah "40" Shebib節。でもあれって最終的にはDrakeの歌心に支えられているところが案外大きくて、あの味というのは簡単には出せない。もし狙うとしたら、ちゃんとしたメロディを編み出さなくては、ただの薄味で淡白なメランコリー系で終わってしまう。
僕が好きな曲の中でOmarionの"Steam"とかJesse McCartneyの"Checkmate"なんていうのは『Take Care』以降を思わせる楽曲だと思いますけど、ここらへんはやっぱりメロディがちゃんとしてるからね、だからこそ輝いているんだと。
Justinの今作はメロディが弱い。だから全然惹かれない。
っていうか、誰かの真似ではなく、自分なりに何か創造してほしかったよね。トレンドセッターになりうる人なのに、全然目新しくないっていうのは大問題だと思う。



アメリカ音楽界というか、アーバンミュージックの世界というのはプロデューサーの手腕に全てが託されていて。
一流歌手には一流プロデューサーから本気の曲が送られて来る。そういうものなんです。
引きの強さみたいなものか。
My WorldもMy World 2.0もUnder The MistletoeもBelieveもJournalsも、そういった引きの強さを感じさせる瞬間が多々あったんですが。
今回こういう結果に終わってしまい、もう神通力は失われているんだろうなと思う。
ポップスターとしての寿命を迎えてしまったんだろう。
残念だね。また次に期待しよう。
次のアルバムに、あるいは次のポップスターに。



[追記 2015.11.14]
最後まで聴きましたが、後半はプロダクションの感じも変わって、まあまあいい感じでしたね。
内省してるかはわかりませんがとりあえず落ち着いた独白調のトラックとか、ちょっとカラフルなクラブチューンとか、そこそこに見所はありましたね。
とりあえずいいなと思ったのは少し鮮やかなGet Used To Itと、しなやかなスウィングTrustですね。特に後者かな。インパクトあるし悪くない。