#10 "WusYaName" Tyler, The Creator

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90年代前半のR&Bヴァイブでスイートにラブソングをけっこう呑気にかます感じは、まぁここ数作のわりとラブソング多めの流れで言えば全然あり得なくはないんだけど、そこに謎のメタファーや複雑な伏線回収とか仕込まずに、そんなにひねりなく直接的に届けるなんてね、ここでそれをやるんだなという驚きは少しありましたけど。
でもアルバム自体がちょっとラフ目な作りにあえてしている感じがあって、DJ Dramaのナレーションがいくらかミックステープみたいな雰囲気もあえて作ってるような感じの、まぁ言うて本気アルバムではないんですよ勢いで作ったんですよ〜みたいなアリバイ工作。
これのおかげでベタが許されるようなところがあって、巧みな自己プロデュース。
前作の『Igor』がとても作品性の高いアルバムだったこともあって、ここからのTylerはそれこそAndre 3000みたいに芸術家としての振る舞いを強要されるっていう周りの認識もあったと思うのよ。作り込まれてて志があって崇高で精巧な作品を作り続けなくてはいけないっていう。
そこを上手く避ける。逃げ道として丁寧に小細工を仕込み、今作はそういう感じなのねと周りに理解させて納得させ、フラットな耳、フラットな環境を整える。上手いですね。
いろいろなアイディアがあった中でアルバムカラーや構成の面で実現出来なかったモノを、いいタイミングなので披露する。面白そうだけど扱いに困っていたアイディアをせっかくなので投入して、アルバム単位に並べる。悪い意味でとっ散らってもしょうがないラインナップを、DJ Dramaお馴染みのナレーションを入れることでもうその散らかりをコンセプトにしちゃって「あーミックステープみたいなコンセプトなのかな」と周りにわからせる。
上手いのと、律儀やね。いい加減に雑に投げっぱなしにせずに懇切丁寧に組み立てる。
ほんと前から言ってますけど、真面目よねTylerは。真面目で律儀。本人に「真面目ですよね〜」なんて言ったら殴られると思いますが。
クリエイターですから。そりゃそうか。