No.18 『The Blueprint 3』Jay-Z

僕個人としては、Blueprintシリーズは時代を更新するような内容でなければいけないと思っている。
『The Blueprint』の素晴らしさは、その先鋭性に起因している。あの時シーンにサンプリングループの可能性を再提示し、ヒップホップトラックの流れを変えたという意味で歴史的にも大きい存在感を持つし、Kanye Westの初の檜舞台としても意義がある重要なアルバムだ。
『The Blueprint 2』はその煩雑さゆえ必ずしも評価は高くないのだが、その後ビッグヒットを産み出すSean PaulやBig Boi(Outkast)、Twistaといった俊英たちを早めに起用したり、将来の嫁さんBeyonceを招いてたりと、今振り返れば多少の見所があるアルバムだったことがわかる。

さて、その第3弾はどうだったのか。
"Death Of Auto-Tune"が出たあたりは、いろいろ期待しちゃいました。シーンに蔓延するAutoTune依存症、そしてそこから来るクリエイティビティの欠如。そこを突くこの曲はひとまずシーンに風穴を開けることに成功したのだ。したんだけどね。
シーンの流行を刷新するような楽曲が、他にはありませんでした。風雲児DrakeやKid Cudi、Mr.Hudsonあたりの参加はワクワクさせてくれたんですけど、彼らの客演曲はいずれもビミョーでした。特に注目されてたDrake客演の"Off That"はTimbo渾身のビートが強烈なんだけど、曲自体は『BP2』に入ってそうな感じだし、Drakeの必要性が感じられず、名前と勢いを借りただけになってるのもいただけない。
"Run This Town"も個人的にあんまりだし、珍しく同志を称える内容の"A Star Is Born"も特に何もなかったです。"On To The Next One"とかは笑えるくらいイマイチだった。
Rihanna曲の後にAlicia曲が続くのも疑問符がつく。この並びだとRihannaがもったいないというか、なんつーか。Jayらしからぬ構成のミスだと思う。
そんな中、良かったのは3つくらいかな。
冒頭の"What We Talkin' About"は鋭く突いてて魅せるし、ピースフルな"Thank You"も何となく"Izzo"を思い出させる好曲。この2曲はリリックも興味深い。
一番良かったのは"Real As It Gets"。客演には、久しぶりに気合いが入ったJeezyでしたけど、最高にカッコいいね。
いくつかあるJiggaとJeezyのコラボは意外といつもJiggaが喰ってた気がする。"Go Crazy"は一気に32小節もブッ飛ばすJayの独壇場になってるし、"Put On (Remix)"にしても熱く語るJayの存在感が濃かったんです。
ただ、今回は違ってました。Jeezy、あんた凄すぎ。もうイントロの「You're ready?You're ready Hov?Let's go.Hands up!」から鳥肌モノだし、魂揺さぶるフックも最高すぎる。
細かいことを言えば、The Inkrediblesの作ったトラックが自作の"Make A Toast"(by Ace Hood)にけっこう似てたり、一番の頭で「改めて自己紹介させてもらうぜ」とか言ってるくせに三番では「オレのこと知ってんだろ、別に紹介もいらないよな」とか言ったりしてるJeezyが相変わらず無茶苦茶だったりと、突っ込み所も結構あるんだけど、まぁとてもカッコいい曲です。主役は完全に埋もれてますが。

で、結果的にはイマイチなアルバムでした。ライトなリスナーは許してくれるかもしれないが、僕は全く満足していない。RaekwonのOB4QLと同じく、Blueprintと名付けた以上、その責任を負わなきゃいけないし、重い責任だ。
では何が悪かったか。
別にトラックが悪かったとは思わない。KanyeやNO I.D.は頑張ってた思うし、TimboやSwizzも彼らなりに最善を尽くしてたと思う。
やっぱり、『Kingdom Come』以降課題になっている、トレンドをセットする感覚の喪失に尽きるんだろうな。40超えて新たなトレンドを作れって言うのは酷な話だが、そこがないとJayの魅力って半減すると思う。トレンドウォッチャーになったJay-Zなんて誰も聴きたくない。

はからずも奥さんと同じ課題を抱えてるんだね。『B' Day』では守りに入ってしまい、『I Am……Sasha Fierce』ではフォロワーであったはずのRihannaをフォローするなど、いつのまにかBeyonceも新たなトレンドを産み出せなくなってしまい、苦しんでいる。
さて、この夫婦にクリエイティビティの復活は、ありうるのか。