#18 "F.U.N." The Game

The Gameも来年でデビュー10周年になるわけですね。典型的かまちょさんで近くにいたらちょっと煩わしく思われちゃうタイプの人ですけど、溢れんばかりのヒップホップ愛...というかヒップホップアーティストへの憧れやファン目線でここまでのキャリアを築き上げてきました。
基本的にはコンピレーションアルバムみたいな作品を出しがちな人で、たくさんのゲストと旬なプロダクションが軸。そこに自身のラップが色濃く乗っかればいいんですけど、LAXとThe R.E.D. Albumは正直薄味でしたよ。ゲストに喰われたわけでもないんだけど、Gameのラップも弱い。頑張ってはいたけど、インパクトがなかった。
前作はJesus Pieceというアルバムでした。昨年もブログにちょろっと書きましたが、これが傑作だったんですね。アルバムタイトルからしてなんか本気っぽいムードは出てましたけど、内容がいい。変わらずゲストは豪華だし、まだまだラップも全盛期よりは薄いですけど、トラックが全編よかった。どこがよかったのかを考えたけど、たぶんね、トラックも薄くて地味めだったんだよね。これが利いていたんだと思う。それまではハードコア縛りみたいなのがあって、音圧キツめのアッパー主体で、ギンギンに鳴らすばかりだったのが、もっと緩やかな、もっとレイドバックしたようなサウンドも並んでいて、これがバランスを取っている。たぶん分類すればよりウェッサイらしいレイドバック感、風の涼しさと情熱たっぷりのカリフォルニアの海辺みたいなトラックたち。それがアルバムのトーンを鮮やかに仕立て上げたんだと思いますね。
西への回帰。やはりKendrick Lamarの存在。個人的にはKendrickの前のTyler,The Creatorも意義深かったと主張したいんですが。西ですよ。今ほんとウェッサイの復権。YGのMy Krazy Life...も傑作だったし。
この流れがあって、Gameもごく自然とウェッサイマナーに戻っていくことができたんじゃないかと。
Snoopの新作も、あと来年出るかもしれないDr. Dreの新作も、おそらく西の香りを濃厚に漂わせるような、そういう内容になりそうな予感がします。



さて、2014年の4th quarterに出たGameの新作Blood Moon: Year Of The Wolf。
なんか出自がいろいろあるみたいで、元々はレーベルコンピになるかもしれなかったマテリアルたちがあって、いろいろ進んでいった結果The Game名義になったっていう、たぶんJiggaのThe Dynasty的な立ち位置になるんだろうと。
とりあえずあらためて思ったのが、この人はラップが上手いんだなぁということ。
単純に滑舌がいいし、緩急自在。リリック的には中の中の上ぐらいで、何か特別テクニカルなライミングとか、含蓄ある詞とか、そういうのは無いんですけど、ラップそのものね。ラップする中で表情を作っていくことができる。演技力的なものでしょうか。
このF.U.N.という曲。3分ちょっとの間に叩き込まれる言葉たち。Fuck You Niggasですからね。怒涛のラッシュです。目新しいことは言ってませんが、テンポ、キレが最高だし、声色もいくつか変えながら、襲いかかっていく。相変わらずの凄み。
トラックもまたレベルが高いんですよね。往年のN.W.A.を思わせる狂気漂う出だしから、ギアが入って追い込んでいくこの緊張感。セカンドに入っていた名曲Comptonをアップデートさせたような、あるいはGameも憧れまくっているであろう大名曲NasOne Micへのオマー ジュのような、そんな感じもします。
アルバム全体に思ったことなんですが、よりボーカリストとしての意識を感じさせましたね。ラッパーもボーカリストなんだっていうこと。声色の話もそうですが、掛け合いとか、テンションの付け方とか、メロディが少し付いたラップとか、表現の幅を広げるべく果敢に挑んでいます。トラックもいろいろと手を出していて、よりアーティスティックな姿勢になっているという、いいことですよ。


フィクションでしかないですから、別に何歳になっても構いません。好きにヒップホップをやってくれたらいい。
それでも、歳相応っていうのは守ってほしいからね。
今後Gameがどれくらい長くキャリアを続けていくのかわかりませんが、頑張っていくつもりであれば、やっぱり芸の幅は広げておくべきで、その点で近作の姿勢というのは非常にポジティブだと思います。
本人もたびたび言ってますが、Emだよね、Eminemのラップに近い。
自分でやれることをやって、行き詰まったらEmを参考にする。それでいいよな。
もし、G-Unitではなく、最初からAftermath入りしていたら、あるいはShady入りしていたら...という妄想もありつつ。
まぁ長くなるんでやめましょう。
The Gameは昔ながらのギャングスタラップの良心です。頑張ってね。
できればもっと客演仕事も増やしてほしいな。