#7 "進水式" KIRINJI

状況、シチュエーションによって価値が高められることってあるよね。
Beckhamがギリシャ戦でロスタイムに決めたFK。別にゴール自体はフリーキックだからスーパーゴールもクソもないんだけど、あの場面、あの状況で、しかもオールドトラフォードで決めたっていうことも含めて、サッカー史に残るような、そういうゴールになっているわけですね。



さて、この進水式という楽曲。
滑らかで優しい、どこか朝焼けは雨のきざしを思い出させるようなドリーミーな名曲。
でも、この曲が特別なのは、これが新生KIRINJIの船出を飾る曲だからであろう。


バンドのボーカリストが抜けるなんて、まったくもって簡単なことではない。いくら演奏で魅せようが、歌をつかさどるのはボーカルであり、ボーカリストの声がバンドのイメージ、象徴として存在するのである。
泰行の声は特別で、場を支配し緊張をもたらすような、そういうパワーがあって。
そんなボーカルがなくなり、いくら高樹といえども厳しいだろうと、そう楽観的にはいられない状況が横たわっていた。


天才は死せず。本物は何度だって蘇る。
名前はアルファベットになり、間違いないバンドメンバーとともに、高樹が帰ってきた。
そして、自ら握るマイク。その歌唱の力強さはどうだ。まっすぐ前をみつめているその目には、一切のくもりもない。
復活のライブ。昔の曲も演ることに驚きを覚えつつ。
いざ披露された新曲、進水式
シニカルというか根性が曲がっているというか、ろくでもない文学を美しく展開するのが高樹ですけども。
なんて素直な歌詞なんだ。わかりやすくて、まっすぐな言葉たち。
ラブソング。その対象は、恋人と、永く優しく明るく続いていく未来。
そうだった。この人は天才なんだ。こんな大名曲を涼しげに披露して、まぁ大したことないけどね的な振る舞いを見せる高樹が好きだったんだ。
信じててよかった。
同じ船に乗って、この先も破天荒な旅を続けていこう。
そして、必ず生きて帰ろう。