No.16 『No Mercy』T.I.

本当はKing Uncagedだったのにね、これじゃあKing Recagedですよ、hahahahaha。
シャバに戻ってきて、別にさほど調子こいてた感じでもなかったんだけど、まぁ運が悪かったな。これからは車の中でも警戒緩めちゃいけないというわけですね。大変だ。

さて、2010年のT.I.はなかなか充実していたと言えるでしょうね。Grand HustleからはB.o.Bがブレイクを果たしたし、自身も"Guilty"、"Bet I"、"Hello Good Morning"、"Fancy"、"Make Up Bag"、"Tangerine"、"Maybach Music III"、"She's So Fly"、"Party People"などの間違いない客演、あるいは気合いの入ったmixtape『Fuck A Mixtape』もリリース、さらにはプロデュース&出演した映画『Takers』も興行的にヒットと、その揺るがない存在をアピールしていたと思う。
ただその一方で、シングルヒットを産み出せていなかったのも事実である。"Got Your Back"は特別光らずイマイチだったし、他のストリートシングルも悪くない出来ではあったがチャートに食い込むことはなかった。"Yeah Ya Know (Takers)"なんかはアグレッシブで"What You Know"とか"Big Shit Poppin'"的な威力のある一発だったけどね、誰も知らないという、ね。
二曲の全米ナンバーワンヒットを擁した前作ほど勢い面のプラスがなく、入獄も二回目でパブリシティスタントとしての新鮮味に欠ける分、より純粋に楽曲の質にのみ焦点が当てられるはずで、T.I.にとって真価が問われる一枚になりそうだ。

という前置きを挟んで、中身の方へ。
なんか地味だったね。うおースゲーと圧倒されることも特に無く、ファーストインプレッションは普通。
僕は前作の浮わついた感じが嫌いだったから、今作の落ち着いたムードは歓迎している。
とりあえず重厚ではある。ただ、その先のクオリティに達することは無かった。
一番最初に感じたのは、真の意味での原点回帰を狙う意思、そして、いつの間にか二度と戻れない位置にまで上り詰めていたという事実、である。
ここ最近けっこうハード層での支持を失う形が続いているT.I.としては、ここら辺で一発あらためてストリートに近づくアルバムを出したいと願っていると思われ。
そりゃチクるのはアカンし。
だけど、やっぱり叶わない。ステータス的にそこまで戻れないだけのスターになってしまったんだな。
Jay-Zの大御所な立ち位置ほどではないけれど、Eminem50 Cent、Lil Wayneあたりとは違う、よりハリウッドに近いセレブリティステータスを持ってしまった。
それがいいことなのかどうか、わかりませんけど。
昔みたいにストリートトークをしたところで、響き方は丸っきり違ってくる。昔は自分もストリートの一部だったのに、今だと上から目線にしか聴こえなくなるのはしょうがないところ。
尖りたくても洗練が表出してしまうし、ラフにかましたくても何処かこざっぱりしてしまう。
表面上は出自に根差してるようでも、突き詰めるとステージは変わり、帰ることは叶わない、という。
ただ、展開の仕方としてはこれしかないとも思う。
こういう風に変わっていくのは成長と言えるし。

さてさて。
豪華なゲスト陣ではあるが、さほど際立った活躍を披露してくれるわけではない。KanyeにしろEmにしろTreyにしろボチボチレベルに留まっている。良かったのはAguileraさんぐらいか。
アルバムを引っ張るような力強い楽曲も見当たらない。トラックも弱いし、主役のラップも無難に過ぎない。
抑え目のテンションを保ちながらいつの間にか終わっているような、えらく地味な気がする。


こういう厳かなトーンは好きなんだけどな。惜しかった。