一流を知る

今年の裏本命であるTyler, The Creatorの『Wolf』、かなり良かったんじゃないか。
前作『Goblin』はひとつのブレイクスルーであったものの、まだまだアルバム全体としては単調で、独特のキモいプロダクションとかザラザラなヴォーカルの強烈さに甘えた構成でした。一本調子で展開の乏しさゆえに飽きが早いタイプのアルバムでしたが。
今作はトラックが遥かに進化しましたね。
先行カット"Domo23"から既にレベルを一つ上げた印象を与えてましたが、アルバム全体に漂う不穏なメロウネスがなかなかに心地よい。基本の不気味さは程々に残しつつ、その上で曲に奥行きをもたらすメランコリックなメロディも湛えたトラックたちは全方向にアピールできる代物でありましょう。
強く響くビートパターンと、そこに乗る上質なメロディ。この作風はNeptunes的な趣がある。2000年代前半の、それこそ『In Search Of...』とか『Hell Hath No Fury』とかあたりの、そこらへんのNep流儀というかPharrell流儀を感じた。そんで僕が挙げた2枚は、先日のインタビューの中でTylerが口にしたフェイバリットアルバムたちの中に含まれていたと思う。
好きなアルバムに影響受けるのはよくあることかもしれないが、それを自らのプロダクションに反映させて今風に発露できるのは凄いことなんじゃないか。元々ラッパーとしては一定以上の力量があったTylerだが、こうしてプロデューサーとしても劇的に成長したんだから、やはり彼は侮れない。
相変わらずアウトサイダーであり続けるであろうOFWGKTAだが、ブレない方向性に、日々上昇していくクオリティは本当に驚異的で見事です。Hip Hopの底力を見せる最高のマザファッカーたちだ。
Kendrick LamarとTyler, The Creator。まったく異なる実力者2人を擁するウェッサイシーンは何気に90年代前半以来の充実っぷりかもしれんね。


『Wolf』も良かったし、こっそりと『I Am Not Human Being 2』も良かったと思うんだよね。やっぱりここら辺の一流どころは外さないなというか、巧いよなぁと素直に感銘を受けました。趣味と時流を両立しながら、ファンの期待に応えていくその塩梅の調節っぷりが一流の手捌き。
J. Coleも次はミス無く纏めあげてほしいです。バランスよくアルバムを構成してほしいね。