『Xscape』の見つめる先

Michael Jacksonのposthumousアルバム第二弾がいきなりの登場。前回のが何とも言えない出来で、期待値もそれゆえぼちぼちでしたが、いざ蓋を開けてみると無理のないクオリティで良かったです。



『Michael』はそれこそ2Pacの一連のアルバムたちのようにプロダクションをアップデートすることで訴求力を上げようとしてましたが、どうしても継ぎ接ぎ感の拭えない楽曲に終始していたんですね。完成度もアレだし、正直アップデートの方もやや中途半端で。




今作は上手くプロデュースされている。オリジナルを活かした調理法。違和感のない肉付けが行われているし、並んだトラックリスティングも統一感を持っていて悪くない。これならマイケルのディスコグラフィを飾っても問題ない。
9曲入りって少ないけど、まぁ『Thriller』が9曲入りだからオーケーでしょみたいな算段が向こう側にはあったんだろう。それを体良く言い訳に使って、今後も定期的に長々と未発表曲アルバムをリリースしていくと思われますが、まぁ別にかまへんよ。それならそれで。ちゃんと出しさえすれば。




2から8曲目のハード路線はDangerous期の作風に近いかなぁと思います。"Who Is It?"あたりを思い出させますね。
マイケルのキャリア全体で考えると一番エッジーな時期でして、相対的には今でも通用するような作風のはずなんですが、今こうしてあらためてその作風に触れてみると流石にクラシカルな印象を持っちゃいますね。聴けない感じではないが、ちょっと古臭いかなと思っちゃう。それが良い悪いは別として。
Dangerous前半のTeddy曲群はニュージャックスウィングの究極形と言えるけど、後半の大らかな感じはなんというかマイケルのロックバラードっていうジャンルなんだろうな。なんというかマイケルしかやれないジャンルというか。あの独特の気怠さとロック的な刹那モード。もうめっちゃマイケルやなぁと。
だからちょっとね、古く思っちゃう。



逆に本来なら最もクラシカルな装いでプロデュースされているはずの1曲目"Love Never Felt So Good"が一番イマドキに聴こえるっていう現代の音楽界の面白さね。ホント奇妙な話で、The Jacksonsあたりのフィリーソウル感を湛えたこんな曲が一番今っぽいっていう。
だからこそ、今回のタイミングでアルバムに入ったんだろうなというのも想像に難くない。"Get Lucky"以降のシーンに合わせて、他の曲たちとはムードが異なるこの曲を敢えて組み込ませたんだなぁと。
アルバムにはJustin Timberlake参加のリミックスバージョンも入ってますが。
やっぱりね、マイケルの声ってホント特別だからさ、ジャスティンも可哀想とすら思えちゃうほどに。なんたって声が美しすぎて。透明でまっすぐで、ダイレクトに胸に響いてくる、あのマイケルの歌声。この世のものとは思えないほどの、神様のような声。
ジャスティンだって美声として認識されていて、"Where Is The Love?"や"My Kind Of Girl"をはじめとして彼の声のおかげでヒットした名曲がたくさんあるというほどの美声の持ち主なのに、マイケルと並んでしまうと、全然かなわなくなるという。
マイケルは本当に唯一無二の存在だったんだ。ダンスやライブパフォーマンスだけじゃない。レコーディングアーティストとして、ヴォーカリストとしても超一流だったんだから。




"Blue Gangsta"とタイトル曲"Xscape"を聴いて思い出したのが、Puffの『Last Train To Paris』ですね。特に前者は「What you gonna do?」のフレーズも含めて(ジャスティンも参加の名曲)"Shades"を思い出させます。
当時から僕は『FutureSex/LoveSounds』の正当な進化の形として『Last Train To Paris』を高く評価していたものの、実際のシーンの反応はイマイチで特にフォロワーを産んだり等の動きはなかったんですが、今回のTimbalandRodney JerkinsによるプロダクションにはLTTP的な感触を覚えましたね。
Puffが早すぎたのか、シーンが理解するのに時間がかかったのか、いずれにしろ今回マイケルのアルバムにその類似したフォーマットが採用されたということは、これがR&Bやポップフィールドのみならずもっと大きなレベルでアピールしうる音楽だったことが証明され、Puffに間違いはなかったことが証明されたわけです。




Xscape』に話を戻すと、やはりこういった未発表曲集ならではの突き抜けなさが否めないんですよね。手抜きや緩みのない楽曲ばかりなんですが、それでも何かひとつスペシャルな何かが欠けた、そういう曲でしかないっていう。当然だししゃーないんだけどね。
まぁ、あんまりわがままは言わんといておこう。まだまだ楽しみが尽きないというのは幸せなことじゃないか。
次にも期待。ありがとう、マイケル。