the long and winding road

あれから数日が経ち、あらためてアジア制覇を成し遂げたという事実を思い出すと、嬉しさと安堵感が溢れ出て止まりません。鹿島アントラーズという日本が誇る素晴らしいクラブチームに対して、ほんと感謝の気持ちでいっぱいです。



さて、少し冷静さを取り戻せたタイミングで、今回の戴冠について考察して行こうか。
正直2018年シーズンが始まった段階で、さほど期待感は高くなかったはずだ。僕も含めファンはもちろん信じていたけど、実際のところは無冠に終わった前年から戦力的な上積みはほとんどなく、何かを起こせそうな予感というのはあの段階では特に感じられなかった。
9冠から10冠になるまでに長い年月を要したこともあって、今回も19から20になるまで数年かかるかもしれないという覚悟もしていた。2017年のリーグ戦を最後の最後に逃したあの流れも、2003年のレッズ戦を思い出させるに充分な悲劇だった。
しかし、今回初優勝を果たしたアジアチャンピオンズリーグは、結果的にあれくらいの劇薬があって初めて乗り越えられるような、それくらいのビッグタイトルだったということなのかもしれない。我らがキャプテン小笠原満男は常々「勝利してタイトルを獲ることで初めて成長できる。負けてしまったら成長はできない」という考えを打ち出しているが、あの2017年リーグの涙も案外選手たちに大きなものをもたらしたに違いない。あれぐらいのことがなければ獲れないような、それぐらいの大きなタイトルだったと。


とは言え不思議なものである。2018年の鹿島アントラーズは、おそらくアントラーズ史においてもさほど傑出したチームとは思えないからだ。
ジョルジーニョビスマルクマジーニョを擁し鹿島史上最強との呼び声高い97年98年チーム、あるいはオズワルド・オリベイラ監督のもとリーグ戦3連覇を成し遂げた09年チームと比べたら、実力的には劣るような気がする。
さらに言えばジュビロとの死闘を繰り広げた最後の時代となる第1次トニーニョ・セレーゾ政権時代の01年チーム、あるいは延長戦にまでもつれ込んだレアル・マドリーとの死闘も記憶に新しい16年チームと比較しても、選手個々の質やポテンシャル、華やかさや知名度の点においても劣るんじゃないかっていう気がする。


では、なぜ2018年チームが初めてACLのタイトルを獲得することができたのか。
一番は選手層の厚さと運用だろうね。ビッグクラブというのはリーグ戦とチャンピオンズリーグを両立するために2チーム分の選手層が求められる。今年のチームは絶対的な選手こそいなかったが、レベルの高い選手が22人揃っていて、大岩剛監督も思い切ってターンオーバーを敢行することができるようなそういうスカッドになっていた。これが大きい。
リーグ戦を西大伍金崎夢生ACL内田篤人&鈴木優磨なんていう他クラブから見たら羨ましくて仕方ないだろう豪華で大胆なターンオーバーは、チームのクオリティとスタミナを持続させるに大きな効果をもたらした。特にポゼッションの軸としてチーム全体で依存度が高まりすぎていた大伍の控えとして同タイプの篤人が帰還を果たしたことは、戦力という点だけを考えてもメチャクチャ大きかった。
ターンオーバーは最後まで上手く行っていた。リーグ戦31節のセレッソ戦、32節のレイソル戦は実に豪快なフルターンオーバー。おそらくJリーグ史上初めての運用なんじゃないか。浦和推しでアンチ鹿島のJリーグ運営による完全なる嫌がらせという仕打ちは本当に腹立たしく嘆かわしいことだが、このクソすぎる過密日程で決して簡単ではない難敵相手に連勝を飾れたというのは、起用された控え選手たちの実力とモチベーション、チーム運用と編成の成功を物語っている。
もちろんツキもあった。守備陣がイマイチな時は攻撃陣が爆発したし、攻撃陣が不調な時は守備陣が持ちこたえてくれた。
振り返ってみて最も危機的な状況にあったのがACL準決。ホームで2点先行されるという最悪の出だしだったが攻撃陣が奮起し大逆転を果たせば、アウェーでも一時2点を先行される苦しい流れも再び攻撃陣が奮起し、ドローに持ち込んでいる。
終始危なげなかった決勝にしても、攻撃陣がプレッシャーの中で本領を発揮できない展開でも守備陣がタイトに試合をまとめ上げてクリーンシートを2つ連ねている。
お互いの調子がうまく補完しあっていた。さっきはツキと書いたけど、これも実力と言えるかもしれんね。実力とコンディション。
トーナメントで大事になってくるのが、調子とコンディション。これに尽きる。いくら実力があったって、いくらポテンシャルがあったって、本番で発揮できるとは限らない。本番で高いチーム力を出すためには、やっぱりコンディショニングが大事。そのためには選手層の厚さは欠かせない。長いシーズン、消耗をなるべく避けるためにはターンオーバーは不可欠だし、大事な試合で調子が悪い選手がいたら思い切って好調なベンチメンバーを起用するぐらいの選手層は、ビッグゲームにおいて必須になる。
過去のアントラーズには、この発想が欠けていた。だからACLを獲れなかったんだと。
僕は大岩剛監督を懐疑的な眼でずっと見ていた。グランパスジュビロ出身ということで、確かにベンゲルイズムがアントラーズにもたらされるのはいいことだと思うんだけど、その一方で負け犬根性というか勝負弱さがどこかで表出するんじゃないかっていう一抹の不安もずっとあって、それがあの昨シーズンのリーグ戦で最後の最後に大爆発してしまって、ほら見たことかと虚しい叫びをした記憶がある。
2003年の最終節レッズ戦の永井雄一郎に対する軽い対応も、あれもアカンかったなぁ。
でも2018年、鹿島の監督を務めて2年目。彼は柔軟だし、変化を恐れない。小笠原満男をスタメンから落としてまでも贔屓目に起用した三竿健斗も大きく成長した。批判を恐れず、リスクを恐れずに全体を運用して行った。ここら辺は若い指揮官ゆえの大胆さだったのだろう。リーグ戦では継続性が求められるから結果が出ないけど、カップ戦なら深まるにつれて大胆さも求められてくる。その心意気に勝負の神様も微笑んでくれた。
スタンドではアントラーズの神様ジーコTDがニッコリ微笑んでいる。
何もかも順調だ。あとは誠心誠意、向上し、進んで行こう。


個人的に期待しているのは久保田和音。セレッソ戦で初めて彼のプレーを見たのだが、びっくりした。噂には聞いていたが、めっちゃいい選手だった。鋭い戦術眼、滑らかで鮮やかなボールタッチ、適切で実に効果的なポジショニング、勝負所を弁えた気の利き方。まさか自分の贔屓チームに和製イニエスタがいるなんて思いもしなかった。メチャクチャいい選手。今後が楽しみ。
アントラーズのベースにはジーコ・サントス・レオナルド・ジョルジーニョらが築き上げたブラジル流が染み込んでいるんですけど、そこに大岩監督がベンゲルイズムのヨーロッパスタイルを少しでも採り入れて行くのであれば、和音の最先端のプレースタイルはバッチリはまるはずだ。本当に楽しみ。