King Gnu 『THE GREATEST UNKNOWN』

King Gnuの4thアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』が無事発売。皆さん聴きましたか。
楽曲ひとつひとつに何ひとつ問題はない。極めて優れたラインナップ。
全く何も知らない人にいきなりこれを聴かせたら、それはそれは感動するでしょうね。
しかし、ファンにとっては... ねぇ。どうなんでしょう。




"白日"のヒットがあって、前作『CEREMONY』で大きな区切りがついていた。
次の一手はやっぱりいろいろと難しいかもなぁと危惧してたけど、以降も意外なまでにコンスタントな配信が続く。
精力的なライブ活動と並行しての脅威的なリリースペースに感謝しつつも、次第に嵩んでいくシングルの数。
そろそろアルバムを出さないと入り切らないんじゃないのかってここ1年ぐらいずっと思ってた。



シングルがありすぎてオリジナルアルバムがシングルだらけになっているパターン。
パッと思いつく代表的な例としては、Mr.Children『BOLERO』。その前の『深海』に漏れただいぶ前のタイミングのシングルも網羅していて、こんなのベストアルバムやんけって当時小6ぐらいの僕は思った記憶がある。でも今あらためて見返すと12曲中1曲がprologueで11曲中シングルは5曲だから、まぁまぁ許容レベルちゃあ許容レベル。アルバム曲も個人的にミスチル屈指の名曲"幸せのカテゴリー"を筆頭に、無敵感あふれるロックンロール"タイムマシーンに乗って"とか、転調してからの大らかで壮大な希望に胸が熱くなる"ALIVE"とか、強力な粒揃いっぷり。ミスチルってアルバム曲の当たり外れが大きくてオリジナルアルバムは総じてショボいってイメージがあるけど、こうやって見るとBOLEROは悪くない。僕にとってのno.1ミスチルアルバムは『DISCOVERY』なんだけど、案外BOLEROの線もあるな。
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↑ALIVEをあらためて聴くとイントロめっちゃメガテンみ溢れててびっくり。こういう曲あるよね真3に。
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この2つを悪魔合体させた感じかな。ごめん桜井さん目黒さん。


他の代表的な例としては、L'Arc~en~Ciel『ark』と『ray』だよね。シングルが8つ貯まっててそれをバランスよく振り分ける意味でも、まさかまさかのオリジナルアルバム2枚同時リリース。2枚組ではなく、2枚のオリジナルアルバム。豪快で勇気ある決断だが、まぁあの時のラルクは天下無双だったからねマジで。arkは11曲あってシングル4つと後にカットされる"Driver's High"を除けばアルバム曲はアルバム曲は6つ、rayも11曲中シングル4曲でアルバム曲は7つと、スタミナの面でも化け物じみてます。(まぁバンドメンバー4人ともソングライティングの技術がある強みですな。全員オリコン1位の作曲シングル持ちという圧倒的実力。Queen並みの強さ)正直arkはアルバム曲が比較的凡庸でイマイチだったが、rayはわりとラルク史に残る傑作アルバムなのでは。ファンに一番好きなアルバムはどれですかってアンケートとったら、まぁ多分1位は『True』になると思うけど、sakura時代なことからその後との連続性という点でナンバーワンにあげるのに躊躇する人もいるかもしれない。となるとrayを選ぶ人も結構いるんじゃないか。当時の若者全員に刺さってた"snow drop"と"HONEY"があって、個人的に超絶好きな"花葬"と"浸食 -lose control-"も備える柔剛兼ね備えたシングルズのみならず、最強名曲"いばらの涙"とかメロディアスお洒落AOR"Sell my Soul"があって、トマラルクでもお馴染み"trick"も最高だった。アルバム序盤の"死の灰"とか"It's the end"あたりのジャブ曲もちょうど良くて、このトータルバランスの良さはやっぱりナンバーワン間違いなし。Trueは何個か捨て曲あったし。背景込みで『HEART』挙げる人も多いかもね。HEARTもアルバム曲強かった。まぁ好みの問題。
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オレどんだけラルク好きなんだよ。貼りすぎ。


あと思い浮かぶ代表的な例としてはキリンジの『7』やな。連続配信リリースをやってたんだよね確か。寡作すぎる天才兄弟がたくさんリリースしてくれたのはありがたいんだけど、オリジナルアルバムへポジティブに作用したかというと、んーよくわかりません。
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懐かしすぎる。ドリーミー名曲。好き。



全然King Gnuの話をしない人。ごめんなさい。
シングルだけで二桁に到達するわけで。
そうなってくるとまぁ2枚組のアルバムで出すならギリギリ成立するかなぁと思ってた。
ただ勝手な偏見ですけど、2枚組アルバムに名盤無しっていうのが僕の持論で。
やっぱり取り留めがなくなるというか、節操なくなるっていうか、どうしても部分部分で薄くなるっていうか。
だから嫌だなぁって、別に何もアナウンスメントも告知もないのに落ち込んでいた。



2023年9月10日。ようやくアルバムリリース決定のニュース。やっとか。
同年10月18日。収録曲公開。21曲入り。ここに至るまでのシングルは全て網羅していて、どうやら2枚組ではないらしい。行けるんか。入り切るんか。(唯一"BOY"の盤にカップリング収録の"F.O.O.L"は謎に漏れてる)
ヒップホップのアルバムだと20曲入りとか一時期結構ありましたけど、あれはスキットとか込みのものだからね。
アルバムのマックスは80分ぐらいですから、多分インタールードとか軽いインストゥルメンタルとかもあるんだろうなと予想しつつ、下手したらALBUM ver.という名のMステバージョン(=2番を抜いて1番3番だけやるバージョン)も下手したらあるんちゃうかと、不安げに構えていた。
発売日は同年11月29日なんですが、そこに至るまでまだまだ配信され続ける曲たち。シングルだったり配信だったりで既知の曲は11にも膨れ上がり、常田出演CM曲だったりプレステのCM曲だったりで耳に届いた曲もあって、もう発売前からアルバムの過半数の曲はそれなりに知っている状態になっていた。



そしてリリース。
蓋を開けてみれば13曲の既発曲に7つのインタールード。つまり完全新曲は"IKAROS"たった1つという、ある意味衝撃的な構成だと判明。
ちょっと大目に見てあげればCM曲の2つはフル尺は初めて聴くのでセーフ。あと"千両役者"は普通にガチリミックスだったのでこれも準新曲でよいかと。ダンスホールちっくなアレンジになっていて驚きでしたが、僕も含めてKing Gnuファンは原曲の方がダイナミズム溢れてて好きでしょうね。僕ほんとオリジナルの千両役者が大好きで令和の"Smooth Criminal"と勝手に脳内で呼んでいます。
とは言え。とは言えよ。
21曲あって、新曲は1つ。
いやはや... これは一体どうしたものか。



オリジナルアルバムというのは、ファンに向けてのプレゼントみたいなものである。
ニワカや新規はシングルを買って、ファンはオリジナルアルバムのアルバム曲を愛でるというのが、日本の音楽ファンの楽しみ方であった。
King Gnuだって、前作まではこのような形だったのに。




ここで2016年の記事をひとつ。7年前の記事。ソニーの大先輩からのありがたい御言葉をどうぞ。

丸山氏:
 ああ、いや……そんな問題じゃない。そもそも、もう世界的に若い人が買ってまでして音楽を聞かなくなっちゃっている。俺はここに凄く悲観的でね、“音楽だけ”という表現そのものが終わりを迎えるんだと思ってる。もう、純粋な意味での新しい音楽は出てこないんだろうな、と。

――それって、だいぶ話が大きいというか、日本の市場がどうこうという話ではないんですね。

丸山氏:
 だって、もう若い子でCDプレーヤーを持ってる子なんていないだろ。彼らはネットでダウンロードした曲をスマホで聴くんだけど、そこには画面があるんだよ。とすれば、コンテンツの形としては映像がある方が自然になる。でも、それは純粋な意味での音楽とは違うものだから。

川上氏:
 つまり、音楽に取って代わるものとして、スマホの映像になるということですか?

丸山氏:
 結局、流行るソフトはハードによって定義されるからね。むしろ映像を活かすためのBGMのような立場に、音楽はなっていくんだと思うな。

 まあ、VRもあり得るんだけど、ハードが手に入るかどうかだね。やっぱり一番手近にあるイクイップメント(機器)に合わせたソフトが流行るわけよ。だって、ほとんどの時間、俺たちは手近なイクイップメントのハードを使うんだから。

――なるほど。そうなると、スマホでしょうし、動画になるでしょうね。

丸山氏:
 そうだろうね。あと、昔に比べて楽曲の起承転結も、ハッキリしなくなってきたよな。全体的に断片的になっていて、終わりも始まりも明確じゃない。これもコンピュータの時代の特徴なんだと思うね。

 もちろん、それでも古い音楽は「昔にあったそういうもの」として、聴かれ続けるとは思うよ。でも、新しい音楽は、どうなるか。そういうものとは違ってくるだろうな。

川上氏:
 実際、動画サイトでは「音楽PV」としての音楽になり出してますよね。
by 「久夛良木が面白かったからやってただけ」 プレイステーションの立役者に訊くその誕生秘話【丸山茂雄×川上量生】

そういう時代なんだと、そういう業界なんだと切り捨てるなら簡単ではある。
サブスクの時代、よっぽどのディープな音楽オタクでも限りCDなんて買わない。ごく普通の一般的若者はそもそも音楽なんて聴かないし、ちょっと音楽好きな人も平気でサブスクでチョロチョロっと済ませたりする。
ウォークマンiPodで音楽を嗜んでいた時代はとうに終わりを告げている。音楽に限らず、この世のコンテンツ全ては、スマートフォン上で繰り広げられている。そんな時代なんです。
ハードによってソフトは形作られる。そりゃそうだ。言うまでもない。
もはや音だけでは成立しない。MVのない曲、映像のない曲なんて誰も聴きやしないのがリアルな実情。
アルバムなんて売れねぇよ。映像がないんだから。
だから今ちゃんと大真面目に本気で音楽を売りたいのならば、抱き合わせるしかない。MV作るか、タイアップやるか、ライブDVDとかライブBlu-rayを付けるか、ミート&グリート権(握手会に代わるヤツ)を付けるか、店舗別特典を増やしまくるか。
ふざけんなよと思うかもしれませんが、これが現実なのよ。目をそらしたくなるような、薄ら寒い現実。



ドラスティックすぎるかもしれないが、これこそが常田大希の選んだ道。
楽曲が完成したならばすぐさま配信する。オリジナルアルバムのためにとっておくという発想はもはや旧時代のものでしかない。
配信することが世間の耳にアプローチするための最善手であり、YouTubeの再生回数を回せるという点で商業的にも必然手である。
やっぱり音楽家でありビジネスマン。芸術家としてたくさんの人に聴いてもらうべきだし、一人の男としてお金を稼がなくてはいけない。それは紛れもない事実。
アルバムは配信曲だらけになるけど、これは新規向け。新規の人に手を取ってもらい易い形。
そのかわりファン向けにライブBlu-rayを付ける。ドリンクホルダーとか手拭いとかの店舗別特典を付ける。
これが理屈。理解できる。筋は通っている。


でも老害でしかない音楽ファンから言わせてもらったら。
オリジナルアルバムを買う喜びってあるじゃない。ワクワクしながらタワレコに入店して、レジでポイントカードをドヤ顔で提示して、あのオレンジ色の袋をぶら下げながら誇らしげに帰宅して、下の方についている糸をピーッと引っ張るあの開封の儀を経て、ご対面。未知なる楽曲が5つとか6つとか収録されていて、ハイパー名曲に巡り会うこともあれば、とんでもないウンコアルバムを掴まされることも全然あるけど、それも含めての音楽体験であり、音楽生活であり、音楽人生じゃないか。
常田だって音楽好きの音楽ファンな訳で、いちリスナーとしてこの感情を持っていたのは間違いないわけで。
僕は井口理が好きで常田大希が好きでKing Gnuが好きだから、信じてるけど。
せめてもう2曲ぐらいは完全新曲あってもよかったんじゃない?って、思いました。
贅沢言うなっていうところかもしれんけど。はい。
IKAROS好きです。最高です。
シングルだけどBOYと雨燦々と一途と逆夢と泡も大好きです。
最初あんまりだったけどSPECIALZも硝子窓も好きになってきました。
千両役者のオリジナルバージョン大好きです。





natalie.mu
今読むとこれまた興味深い言葉たちが並んでいますね。
永遠の神メディア、ナタリー様。いつもお世話になります。
最新のお言葉も待ってます。